中国と台湾の国旗Photo:PIXTA

台湾独立派への処罰は
中国による「統一工作」の戦略的一環

 前回のコラム「台湾独立派への死刑も可能に!習近平指導部の「処罰指針」が脅しでは済まないワケ」では、6月21日、中国政府で公安や司法に関わる5つの部門が連名で、「『台湾独立』の頑迷分子による国家分裂と国家分裂扇動の犯罪の法による処罰に関する意見」(以下「意見」)を発表したことで、台湾海峡における緊張度が一層高まった経緯を検証した。

 中国の刑法に基づき、台湾独立運動に積極的に参加した容疑者に対しては3~10年、その他の参加に関しては3年の懲役、拘留、政治的権利のはく奪などが、また、罪名が重大で深刻な場合には無期懲役、あるいは10年以上の懲役が、そして国家と人民に危害を加える特に悪質な行為に対しては、死刑を下すと規定している。

「意見」は言うまでもなく台湾や日本を含めた関連諸国の間で物議をかもし、習近平国家主席率いる中国共産党にとっての長年の悲願である「台湾統一」に向けたさらなる行動、政策だと受け止められた。前回コラムで論じたように、筆者もそう分析する。

「意見」公布後、中国政府は今回の指針が標的とするのはあくまでも「極少数の台湾独立分子」であり、「広範な台湾同胞」をターゲットとするものではないと主張している。

 それどころか、「極少数の“独立”に関する劣悪な言動を取り、“独立”を企てる活動を行う台湾独立頑迷分子を法に基づいて処罰することは、台湾海峡の平和と安定を真に守り、台湾同胞の利益と福祉を切実に保障するための必要な措置である。台湾社会における、平和、発展、交流、協力が必要だという主流の民意に符合するものだ」(国務院台湾事務弁公室朱鳳蓮報道官、6月26日記者会見)という論理を展開しているのが現状である。

 中国側は長年台湾の政治、世論、社会に対して統一戦線、浸透、影響力工作を実施してきた。世論戦、心理戦、法律戦という「3戦」の一環とも解釈できるが、今回の「意見」もその延長戦にあるというのが筆者の理解である。

 例えば、6月26日の会見で、朱報道官は、「台湾で過去に“台湾独立”を主張したが、その後立場を変えた人間に対して、中国側はそれでも刑事責任を追究するのか?」という香港経済導報記者からの質問に対して、次のように回答している。

「『意見』は法に基づいて厳格に制定されているが、寛容性と厳格性の双方を内包しつつ、犯罪行為を処罰することを堅持する。“台湾独立”頑迷分子が自ら台湾を独立、分裂させる立場を放棄し、“台湾独立”を企てる分裂活動を行わなくなったのであれば、そして、自らの言動で招いた危害の後遺症を軽減、除去し、あるいは危害の拡大を防止するための何らかの措置を取るのであれば、法に基づき、一部、場合によってはすべての刑事責任を追究しないことも可能だ」

「法律」を武器化する形で、中国側が警戒する“台湾独立分子”の言動、政策、立場を変えさせるべく、政治的圧力をかけていると解釈すべきであろう。中国による「台湾統一」工作は、決して武力による統一か平和的統一かという単純化した二項対立的な産物ではない。「3戦」を含め、白か黒ではないグレーゾーンを存分に利用する形で展開されてきたし、これからもそうあり続けるという前提で、「台湾有事」をめぐる情勢の推移を観察すべきである。