この2つに共通しているのは、個人がなるべくコストがかからない方法を選んでしまうという傾向です。コストがかからずに、より高いベネフィットを得る方が合理的だからです。

各部門の「正しさ」追求が
組織不正につながる可能性

 これは損得勘定とも呼べます。このような損得勘定が働くことは、組織内の人々を説得しやすく、個人ではなく組織的に合理的な決定が下されやすいと言えます。その結果、本来は損得勘定だけで考えてはいけない物事をこれに当てはめて考えてしまうことにもつながり、結果的に組織不正が行われうるのです。

 これは組織であれば、部門間の意見の食い違いとしても考えることができます。もし、生産部門が現在使っている機械が古いもので、非効率的な生産しかできないと判断した場合に、新しい機械を導入したいと考えます。

 ただし、新しい機械は多くの場合大変高価なものになります。そこで、経理部門に相談したところ、「新しい機械を導入したとしても、損益分岐点(損益がゼロのポイント)が上回るタイミングは向こう10年訪れない」と言われてしまえば、機械は古いままであり、生産部門は困ってしまうのです。

 このような状況においても生産部門は、「より良い製品を生み出してほしい」と経営者や管理者から伝えられますから、本来古い機械ではできないはずの製品を作ろうと、必要なデータを変えるなどして古い機械のまま(データが書きかえられた)製品を作ることで、それをより良い製品に見せたりすることなどが行われてしまうのです。

 さらに、ひとたびこのような製品不正(品質不正)が行われてしまうと、新しい機械の導入が控えられるたびに製品不正(品質不正)が維持されてしまうようになり、(1)と(2)の原因の両方を満たしながら、組織は合理的失敗を犯してしまうのです。

 組織における「正しさ」から考えれば、生産部門が新しい機械を導入したいと考えるのは「正しい」判断と言えますし、経理部門が損益分岐点を理由に導入を控えるようにすることも「正しい」判断です。また、経営者や管理者が「より良い製品を生み出してほしい」と伝えるのも「正しい」判断になります。