「積み立て王子」との異名で呼ばれた中野晴啓氏が再始動した。セゾングループの“天皇”である林野宏会長により解任されてからわずか10カ月での復活だ。どのような軌跡を経て今に至るのか。セゾン投資問題の深層と題して、前編、後編に分けて振り返る。前編ではこれまでの経緯を振り返る。(共同通信編集委員 橋本卓典)
幻の買い取り案
セゾン投信の会長解任劇から10カ月――。
2006年にセゾン投信を創業し、日本に積み立て投資を普及させて、「積立王子」との異名で呼ばれた中野晴啓氏が再始動した。24年4月25日、中野氏率いる新たな資産運用会社「なかのアセットマネジメント」がファンドの運用を開始したのだ。当初は楽天証券だけの取り扱いだが、運用資産額は36億円だという。
資産運用業で、これは極めて異例な出来事である。セゾン投信会長の解任劇からわずか10カ月でスタッフをそろえ、スポンサーからの出資を仰ぎ、金融当局の認可を取りつけるのは至難の業だ。
中野氏がなかのアセットマネジメントとして再スタートを切ったことの意味は何か。さらに新会社設立までの舞台裏で何があったのかについて、前編、後編に分けて迫る。
実は、中野氏にはセゾン投信会長の退任直後、セゾン投信を買い取る意思があった。中野氏は明言を避けるが、資産買い取りのため、大手金融機関を巻き込んだ調整を水面下で試みていたことは、周辺取材を総合するとほぼ間違いない。
しかし関係者によれば、セゾン投信の親会社であるクレディセゾンで、“天皇”として君臨する林野宏会長が頑として受け付けず、買収案は幻に終わったという。
ここで疑問が浮かぶ。もしかすると、クレディセゾンはセゾン投信を最も高く売れる絶好の時期を逃したのではないだろうか。そしてセゾン投信を追放され、買い取りもかなわなかった中野氏は果たして敗れたのだろうか。
この問いに答えを出すためには、中野氏が新会社で再スタートを切った意味と、セゾン投信問題とは何だったのかを金融業界全体の文脈の中で捉え直す必要がある。