「見通しの良い交差点」で事故を招く
「コリジョンコース現象」とは?

 最初に断っておくと、本稿は特定の事故の原因を論じるものではない。あくまで一般論として、「見通しの良い交差点」に潜む危険について解説していく。

 こうした交差点で事故が起きがちな理由として、まず考えられるのは「コリジョンコース現象」による錯覚だ。コリジョンコース現象とは、2台の乗り物が1点に向かって等速直線運動(同じ速さで真っ直ぐ走ること)をしていると、お互いの乗員が「相手は静止している」と誤認識してしまい、接近するまで危険を察知しづらくなる――という現象のこと。クルマだけでなく、船舶や航空機でも発生する。

「見通しのいい交差点」で重大事故が発生するワケ、ドライバーを惑わす「恐怖の錯覚」とは?JAF(日本自動車連盟)の公式サイトでも、コリジョンコース現象に警鐘が鳴らされている(出典:JAF

 人間の視野は、中心視野と周辺視野に分けられる。中心視野は解像度が高く、視線の先の状況をはっきりと認識できる。一方、周辺視野は解像度が低く、状況をはっきりとは認識できない。そのため、たとえ見通しのいい交差点であっても、周辺視野でとらえたクルマが「止まって見えた」場合、ドライバーが危険を察知するのは至難の業だ。結果、2台そろって交差点に進入し、事故に至ってしまうというわけだ。

 また、交差する道路を走っているドライバー同士が「自分は優先道路を走っている」と誤認識した結果、事故が起こる恐れもある。交通整理が行われていない交差点では、明らかに幅員が広い道路や、センターラインが設けられている道路を走るクルマが優先される。道幅が同じでどちらにもセンターラインがない場合は、「左からくるクルマ」が優先だ。

 この点について、人間の目はどうしても「近くにあるモノは大きく、遠くにあるモノは小さく」見えてしまう。ドライバーが遠くから交差する道路を見ると、「自分が走っている道路は広く、そうでない道路は狭い」と錯覚しがちになる。センターラインがあるかどうかも判別しづらい。双方が「自分が優先」と考えているクルマ同士が猛スピードで近づいた場合、何が起こるかは自明である。

 さらに、自車のAピラー(別名フロントピラー/フロントガラスの両端にある柱状のパーツ)に相手のクルマが隠れてしまい、存在を認識できなくなる――というケースも事故原因になり得る。少し離れた道路を2台のクルマが同じ速度で走行している場合、位置関係によってはお互いのクルマがAピラーの「死角」に入ってしまい、双方のドライバーが気づかないまま至近距離まで近づく懸念もある。

 見通しのいい交差点で発生する「十勝型事故」は、これらの状況が重なった末に起こると筆者は考える。