生成AIのせいで「子どもが自力で宿題をしなくなる」と恐れる大人に欠けている視点写真はイメージです Photo:PIXTA

人工知能(AI)の研究者であり、北海道大学大学院 情報科学研究院の教授を務める川村秀憲氏の書籍『10年後のハローワーク』(アスコム)から、要点を一部抜粋してお届けします。今回のテーマは「教育の未来」。親や教師の中には、ChatGPTなどの生成AIが普及することで、「子どもが自力で宿題をしなくなる」「出力結果のコピペなど、ズルをするようになる」と危惧する人もいるでしょう。そうした人たちに欠けている視点とは――。

AIが普及したあと
教育はどう変わる?

 今回はAIが普及したあと、教育がどう変わるかについて述べていきたいと思います。産業としての教育を、義務教育を含む一般の学校教育と、塾や予備校などに分けて見ていきましょう。

 まず概論としては、AIは教育を大きく変えますし、教育にはAIが担える内容がとても多く、効率面でも内容面でも質の向上が期待できます。当然、この部分だけを考えれば、雇用にはネガティブな影響を与えるでしょう。

 ただ、いわゆる勉強以前の教育には、人間と人間の関係をどう作り、社会を築き上げていくかという重要な内容が含まれています。この点をAIに任せるのは簡単ではありませんし、そうすべきかどうかについても議論があって当然です。

 まず、小・中学校の義務教育を考えてみましょう。

 AIが社会に普及すればするほど、比例して画一的な教育カリキュラム、成果の追求の意義は下がっていくことになります。みんなそろって「国語・算数・理科・社会・英語」を学び、一般化、規格化された事務処理能力を確保するための、いわば知的大量生産は不要になるからです。

 従って、理想論的に述べれば、小学校のある時点以降は、いままでのように全員が同じ教科書で学び、全員が目指す理解度、達成度が同じである必要はなくなるはずです。学年が上がれば上がるほど、より勉強ができる子どもも、相対的にできない子どもも、そもそも勉強に興味がなく不向きな子どもも同じ課程で学ぶことに合理性がなくなるからです。

 このため、一般的な知識、共同体を維持するために誰もが社会的に共通して知っておくべき知識の水準は、現在よりも大きく下がるでしょう。その代わり、ある時点からは子ども個人の能力や適性、そして本人が望む目標に合わせた「寄り添い型」の教育が重要になります。かといって子どもの人数分の先生を雇用するわけにはいきませんので、ここでもAIの力が役に立つでしょうし、あるいは子どもが自らAIとともに学びたいことを学び、能力を伸ばしていくような教育方法が適していると考えます。

 義務教育終了以降は、よりこの傾向がはっきりするでしょう。いままでのように高いお金を払って家庭教師を雇う必要も、いきなり師に弟子入りする必要もなく、まずはAIを「師匠」として学びたいことの学びを深め、社会に出たり、より専門的な教育や研究の道に進んだりする際の助けにできればいいでしょう。