「見通しの悪い交差点では、事故に注意しましょう」。自動車教習所などで教わる、安全運転の「キホンのキ」だ。だが実は、一見すると安全な「見通しの良い交差点」でも重大事故が起きていることをご存じだろうか。その背景にある「目の錯覚」の実態を、交通事情に詳しいジャーナリストが解説する。夏休み中の事故防止に役立てて頂けると幸いだ。(自動車ジャーナリスト 吉川賢一)
「見通しの良い交差点」で
重大事故が起きるナゾ
クルマで走行中、見通しの悪い交差点や、交通量が多い道路などに差し掛かると、誰もが普段より慎重に運転するだろう。一方で、見通しが良く、周囲にクルマが少ない道路を走行しているときは、スピードを上げて爽快感を味わいたくなるものだ。
これらの交差点のうち、どちらが事故のリスクが高いかを聞くと、前者(見通しの悪い交差点)を挙げる人が圧倒的に多いはずだ。しかしながら、特定の条件がそろい、ドライバーに「目の錯覚」が起きた際は、見通しのいい交差点でも重大事故が発生することがある。
例えば2023年1月、福島県郡山市の市道交差点で乗用車と軽自動車が衝突し、軽自動車に乗っていた家族4人が死亡する痛ましい交通事故が発生した。現場は見通しのいい交差点。事故が発生したのは夜間だったが、交差点に近づいてくるクルマをはっきりと認識できる状況だったという。
福島県では7年前にも、水田地帯の見通しのいい交差点で、クルマ同士が出会い頭に衝突する事故が発生した。双方とも減速することなく交差点へ進入し、衝突した結果、2台とも道路脇の水田に落下。どちらのドライバー(当時30代と20代の男性)も重傷を負ったとのことだ。
2015年には岐阜県の養老町でも、クルマ2台が減速しないまま見通しのいい交差点に進入し、衝突した末に、ドライバー1人が死亡する事故が発生した。頻度としてはまれだが、このように「極めて安全」と考えられる交差点でクルマ同士がぶつかるという不思議な事故が、道路では実際に発生している。
北海道でも似たような事故が起きているため、見通しのいい交差点での衝突事故を「十勝型事故」と呼ぶこともある(「田園型事故」という別名もある)。こうした事故は、なぜ起きてしまうのか。筆者の見立てをお伝えしていきたい。