生保「経済価値ベースのソルベンシー規制」、テストで現れた不可解な現象から見えた課題Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 金融庁で有識者会議を設置して議論を深め、丁寧に準備が進められてきた経済価値ベースのソルベンシー規制(第1の柱の定量規制)。金融庁は5月末に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性」を取りまとめ、来年度の導入に向けて最終段階に入りつつある。この新規制は、国際的な保険資本基準の枠組みに準拠するものであり、従来の規制との最大の相違点は、契約時に固定する責任準備金ではなく、現在の市場環境と整合的な経済価値で保険負債を評価する点にある。これにより、資産負債管理と整合的なシグナリングを行えることが期待されていたが、今それが揺らいでいる。

フィールドテストで見られた不可解な現象

 金融庁が5月29日に発表した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性」(残論点の方向性)に先立って、「23年3月基準フィールドテスト結果」(FT23)が公表された。このFT23では、これまでにない不可解な現象が見られた。

 生命保険はその商品特性上、一般に経済価値ベースでは、負債の金利による変動は、資産の金利による変動を上回る。そのため、金利上昇時には、原則として負債が資産よりも大きく減少する(純資産は増加する)ことになる。

 従って、経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)は適格資本、つまり分子の増加によって改善するはずだ(金利低下時ではその逆)。しかし、FT23のESR感度分析では、生保業界全体で金利が50bp上昇しても、50bp低下しても、ESRが低下する結果を示したのである。