2023年6月に基本合意書を交わし、同年10月からメール便や小型・薄型荷物の領域で協業をスタートしたヤマト運輸と日本郵便。ライバル関係にあった両社の“世紀のお見合い”に世間は驚愕したが、協業開始から1年で破談の危機にあることを示す内部文書を入手した。特集『物流大戦』の番外編で、その全貌を明らかにする。(物流ジャーナリスト 刈屋大輔、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
日本郵便社長がヤマトに「遺憾」表明
基本合意から1年余で蜜月関係に亀裂
「貴社を信頼してこれまで準備に当たってきた弊社関係者の多大な努力や思いを踏みにじるというほかなく、極めて遺憾であると言わざるを得ません」
11月20日、ヤマトホールディングス社長兼ヤマト運輸社長の長尾裕氏に提出された文書には、こんな文言が記されている。“差出人”は日本郵便の千田哲也社長。「弊社関係者の多大な努力や思いを踏みにじる」「極めて遺憾」。千田社長が記した言葉からは、堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりの激しい怒りが伝わってくる。
ヤマトと日本郵便といえば、2社で国内宅配便の7割近いシェアを握る最大手企業だ。個人宅に荷物を届ける宅配インフラを担う両雄の間で今、一体何が起きているのか――。
両社が2023年6月に交わした基本合意書に基づき、協業をスタートさせたのは同年10月のことだ。両社によるコラボ商品である「クロネコゆうメール」と「クロネコゆうパケット」は、ヤマトが荷物の集荷を、その先の幹線輸送と配達を日本郵便が担当する分業体制を敷くことになった。
新サービス開始に伴い、ヤマトは自社完結型のメール便商品「クロネコDM便」の取り扱いを24年1月末で終了、クロネコゆうメールに一本化した。さらに、日本郵便の投函型・小型宅配商品「ゆうパケット」と競合していた「ネコポス」の取り扱いも順次終了し、24年度末までにネコポスをクロネコゆうパケットに完全移管する方針を打ち出した。
宅急便の生みの親であるヤマト運輸元社長、故・小倉昌男氏が中心となって1990年代前半から2000年代前半にかけて展開した郵便行政への批判論戦などもあり、両社は長年にわたり“犬猿の仲”にあった。それだけに今回の業務提携は、ドライバー不足などを背景に「競争から協働」へ経営のかじを切りつつある物流業界の近年の動きを象徴する出来事の一つとして大きな注目を集めた。
ところが基本合意からわずか1年で、両社の蜜月関係に早くも亀裂が生じていることが分かった。冒頭の通り、日本郵便のトップがヤマト社長に対し、「遺憾」の意を突き付けるまでの事態に陥っているのだ。
このままでは提携解消にとどまらず、かつてのような熾烈な抗争が再燃しかねない。次ページで日本郵便の怒りの原因と抗争の内実について明らかにする。