物流大戦#13Photo:JIJI, NEXT Logistics Japan, Diamond

物流の「2024年問題」は、メーカーにとっても深刻だ。モノを運べなくなるリスクを回避すべく、トヨタグループ傘下の日野自動車が「メーカー物流連合」を結成。さらに伊藤忠商事やヤマトホールディングスもデジタル技術を活用した共同輸配送モデルを模索し始めており、業界を超えた物流プラットフォーマーの覇権競争が熱を帯びている。特集『物流大戦』の#13では、各社の狙いを追う。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔、重石岳史)

トヨタの社内会議で生まれた物流構想
伊藤忠&ヤマトも参戦、陣営拡大へ

「トヨタを『自動車をつくる会社』から、『モビリティカンパニー』にモデルチェンジする」

 トヨタ自動車の豊田章男社長(現会長)がそう宣言した2018年当時、トヨタ内部であるプロジェクトが進行していた。

 そのワーキンググループのメンバーの1人が、梅村幸生氏だ。1996年に日野自動車に入社し、トラックの営業や商品企画担当を経て親会社であるトヨタの総合企画部に出向。「自動車をつくること以外で、自動車メーカーがやるべき仕事とは何か」。そこで豊田氏から与えられた命題について議論を重ね、導き出した答えが、物流だった。

 人手不足やEC取引の増加などの複合的な要因により、物流サービスの提供が困難になる未来は、「2024年問題」が浮上する以前のその当時から予想できた。特に長距離幹線輸送の人手不足は深刻で、そうした課題を解決するために18年6月、日野自動車が設立したのがNEXT Logistics Japan(ネクスト・ロジスティクス・ジャパン、NLJ)だ。トヨタでの議論を具現化すべく、NLJの社長に就いたのが梅村氏だ。

 今、NLJの株主にはアサヒグループジャパンや江崎グリコ、日清食品ホールディングスなどの大手メーカーや物流会社、金融機関等が名を連ね、業界横断の一大連合が形成されている。

 こうした物流プラットフォーマーを志向する動きは他にもある。今年5月、物流2024年問題の解決に向けた「物流改革」を推進するとぶち上げたのが、伊藤忠商事だ。KDDI、豊田自動織機、三井不動産、三菱地所がその陣営に加わった。

 一方、異業種がなだれ込む状況を既存の物流企業も指をくわえて見ているわけではない。宅配大手のヤマトホールディングスも5月、新会社のSustainable Shared Transport(サステナブル・シェアード・トランスポート、SST)を設立した。

 各陣営のプラットフォーム構想を裏付ける理論が、「フィジカルインターネット」の考え方だ。インターネットのパケット交換の仕組みを物流に適用し、「フィジカル」なモノの輸送・仕分け・保管を変革する考え方で、21年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱」でも言及されている。

 このフィジカルインターネットの事業化に取り組む伊藤忠商事物流物資部の長谷川真一氏は、米グーグルやアップルなどが勃興したインターネット黎明期にネット事業に携わった経験を持つ。長谷川氏は「今の物流業界は、ネット黎明期に重なって見える」と言う。物流の世界で、新たなプラットフォーマーがいつ現れてもおかしくない。

 では、物流のプラットフォーマーに誰がなり得るのか。各陣営の目的はほぼ同じだが、戦略は微妙に違う。そうした戦略の違いや、勝敗を決する「鍵」の存在を、次ページで明らかにしていく。