日経平均4万円台はマボロシだった?歴史的な大暴落でも「日本株の未来は明るい」と言える意外な理由インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第111回は、歴史的な大暴落に揺れる日本株の長期的な展望を解説する。

日経平均4万円台は幻だった?

 桂蔭学園女子投資部のメンバーは藤田家の令嬢・美雪の母から企業統治(ガバナンス)の基礎を学ぶ。美雪の母は赤字が続けば経営陣は株主の信任は得られず、「責任を取って経営から退くことは株式会社として当然の結果」と言い切る。

 米国の景気減速と日銀のサプライズ利上げが重なり、円相場と株式相場が大荒れとなった。米国の景気が失速して利下げが加速すれば、円高と日本株安に拍車がかかる懸念は残る。日経平均株価の4万円台回復は幻だったかのようだ。

 だが、私は長期的には日本株に楽観的だ。一番の理由は日本企業のガバナンスの変化が不可逆的で、企業価値向上は途切れないと見ているからだ。

 今年の3月期決算会社の株主総会シーズンで私が一番驚いたのは、中堅証券の東洋証券の前代未聞のドタバタ劇だった。

 同社は6月26日の総会当日になって桑原理哲社長の取締役選任案を取り下げた。業績低迷を理由に反対票が集まったため、総会直前に会社側が白旗をあげたのだ。東洋証券は複数のアクティビストに株式を買い占められ、「モノ言う株主」の握る議決権は3割程度に達すると見られる。桑原氏の選任は1年前の総会でも賛成51%とギリギリだった。

 東洋証券は鮮烈な例だが、他にもシャープや日本精工などで現経営者の信任率が急低下するなど、株主の監視の目は一段と厳しくなっている。

カギを握るのは「モノ言わぬ株主」

漫画インベスターZ 13巻P95『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 こうした事例では「会社vsアクティビスト」という構図に目が向かいがちだ。しかし、東洋証券の例でも他の株主がアクティビスト側に回らないと会社側が苦境に立たされることはなかったはず。一番大きな変化はアクティビストの声が大きくなったことではなく、「モノ言わぬ株主」たちの行動が変わったことだ。

 日本企業のガバナンスには、投資家による「責任と監視の連鎖」が組み込まれてしまった。この変化は後戻りできないものだ。

 連鎖の起点は年金基金などのアセットオーナーだ。アセットオーナーは資金の預かり手として最善を尽くす責任を負っていてる。そのアセットオーナーは運用を任せる資産運用会社対して、責任ある行動と説明責任を求める。ぬるい対応をしていればアセットオーナーに見限られるから、運用会社は必死になる。

 当たり前の構図に見えるが、かつて日本では企業同士が株式を持ち合う政策保有が盛んで、この「責任と監視の連鎖」が機能しなかった。要はお互い様の「なあなあ」の世界だったのだ。

 保険契約獲得のための政策保有を続けてきた生命保険や損害保険にもこの変化の波は及んでいる。「モノ言う」まで踏み込まなくても、純粋な投資家としての視点で合理的に振る舞うことを求められる時代になった。今や業績低迷や取締役会の多様性などで一定の水準をクリアできなければ、経営陣は株主の信任を得られない。

 私が記者になった1990年代半ばには、当たり前のはずの現状はあり得ない光景だった。ようやく日本の株式市場にまともな姿に脱皮し、企業に変化を促している。課題さえクリアになれば日本企業は適応力が高い。日本株の未来は明るいと私は楽観している。

漫画インベスターZ 13巻P96『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 13巻P97『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク