「口臭」があると認知症リスクが上昇、東京医科歯科大学の研究よりPhoto:PIXTA

 近年、認知症と「お口の健康」の研究が進んだ。

 たとえば歯周病があると、アルツハイマー病リスクが2倍近くに上昇する一方、残存歯が多いほど、認知症リスクは低下する。

 そして「口臭」も認知症リスクになるらしい。

 東京医科歯科大学の研究グループは、国立がん研究センターなどが行っている長期疫学研究のデータを用い、口臭と認知症リスクの関係を調査。対象は、2005年5月~06年11月に歯科検診を受けた56~75歳(平均年齢65.6歳、女性53.6%)の秋田県・横手市の住民、1493人だ。

 口臭に関しては、歯科医が「口臭なし」、対象者に顔を近づけないとわからない程度の「軽度」、診察時の対面距離で明確にわかる「重度」の3グループに分類。また、認知症の発症は、要介護認定情報を参考にフォローアップした。

 06~16年の11年間の追跡期間中、全体の6.4%にあたる96人が認知症を発症。口臭の重症度別にみると、口臭なし群での発症率は6.6%、軽症群は同5.1%だったが、重症群では22.4%と突出して高かった。

 さらに年齢や性別、体格指数、基礎疾患の有無などの体の健康状態と歯磨きの頻度や残存歯数など、口の健康状態の影響を調整して比較した結果、重度の口臭がある人は、口臭がない人より、認知症リスクが4.4倍高かったのである。

 つまり歯周病が軽症で残存歯の本数が多いケースでも、口臭がひどい場合は、認知症リスクが上昇する可能性があるのだ。

 研究者は「口臭を気にするあまり社交的になれず、社会的な孤立から認知症リスクが高まる」と指摘している。

 先行研究では、孤独や社会的孤立が明確な認知症リスクであることが示されている。本研究は「口臭が先か、認知症が先か」という問題があり、一概に口臭=認知症リスクとはいえないが、口臭予防が認知症予防に働く可能性はある。

 口臭予防は日々の歯磨きと、こまめな水分補給などドライマウス対策が基本。もし、人との交流を避けるほど気になる場合は、歯科医に相談することも必要だ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)