人的資本の投資リターン
適切な測定方法は存在するか
企業価値向上に向けたサステナビリティ経営を支援するコンサルタントとして、最近は「人的資本経営」を主題としたセミナーなどに登壇することが多い。そうした場で寄せられる質問のうち、圧倒的に多いのは「人的資本の投資リターンを測る指標は存在するか?」という問いだ。
参加いただいた企業の経営企画部や人事部の担当者は、追加的な人的資本への投資に関する経営者の承認を取り付けることに苦労しているようだ。ただ残念ながら、上記の質問に対して筆者は「現時点では、ほとんど存在しない」と回答している。
回答として強いて挙げるとすれば、人的資本ROI(Return On Investment)がそれに準じる指標かもしれない。人的資本ROIの定義はシンプルで、営業利益(もしくは売上総利益)を総人件費で割った数値だ。
一般的な財務指標としてのROIは、営業利益を投下資本(総資産など)で割った数値である。このROIの分母を総人件費に置き換えれば人的資本ROIとなる。
ただし、人的資本ROIは粒度が粗く、「結果」に過ぎない感が否めない。このため人的資本ROIという回答は、これから追加的に行う人的資本投資のリターンや経済合理性を社内で説明したいというニーズに応えられそうにない。
そこで以下では、人的資本の投資リターンを測る指標を模索する方への要望に応える、人的資本投資リターンの計測手法の可能性について考えてみる。