だから、世界の一流アスリートは五輪のような舞台で、どこそこの敵国に国民を殺されたので、彼らの無念を晴らすようにメダルを取るとか言わない。そのようにトレーニングを受けているのだ。

 そういう意味でも、早田選手のサポートスタッフたちは、彼女にこのような「炎上確定ワード」を控えるように教えておくべきだった。例えそこに「平和を祈るため」という真意があったとしても、だ。

 日本には先の戦争が、「白人の植民地化からアジアを救った正義の戦い」と信じて疑わない人がたくさんいるように、中国や韓国には先の戦争を「天然資源の少ない日本がアジアに補給路を求めた侵略戦争」と信じて疑わない人がたくさんいるのだ。

 どこまで行っても平行線で、いくら対話をしても和解できないということで、憎悪が積み重なっていく。それがなにかのきっかけで暴発して、民族同士の殺し合いが激化すると、国家間の戦争になる。

 こういう最悪の展開を回避しようと、「五輪」が生まれた。しかし、残念ながら近年のオリンピックは莫大な金がかかるので、「ショー」として盛り上げるために、ナショナリズムを煽らなければいけない、という矛盾を抱えている。

 あまり自覚はないだろうが、実は我々日本人は、そんな「スポーツナショナリズム」が強い国のひとつだ。メダルの色や数で「戦争」のように大盛り上がりできる珍しい国なので、アスリートも「日の丸を背負う」「手ぶらでは帰れません」などと、戦地に赴く兵士のようなことを口走っている。そんな調子なので当然、アスリートたちも対立する国がカチンとくるようなナショナリズム丸出しの発言を無意識にしてしまう。

 そこで、メディアトレーニングやインタビュートレーニングが必要だ。アスリートを炎上や誹謗中傷から守るためでもあるし、所属している企業にとっての危機管理でもあるので、日本のスポーツ発展のためにも、企業スポーツ担当者はぜひご検討いただきたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

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