暑さでフラフラしている人を助けるには

――息子の同級生が、小学校3年生の頃に通学路でお年寄りの命を救ったそうです。暑い時期、熱中症でフラフラになっているお年寄りがいたので、その子は「大丈夫ですか?」と声をかけ、持っていた水と塩分タブレットを渡しました。そのあと、近くの大人に助けてもらったということなんですが、小学生でとっさにそんなことができるなんてすごいと友だちの間では話題になっていました。

西:それは素晴らしいですね。

――近くに「熱中症かも?!」と思う人がいたら、その子のように水分と塩分タブレットを渡してあげるのが良いでしょうか?

西:まず大切なのは、涼しい環境へ移動させることです。暑さへの暴露が続くと良くありません。水でもいいですが、あればスポーツドリンクなどの経口補水液を飲ませます。スポーツドリンクには電解質と糖分が入っているので効果的です。それから、とにかく体を冷やしてください。

【救急科専門医が教える】熱中症の人の脳に起きる「不可逆な変化」とは?『いのちをまもる図鑑』本文より イラスト:五月女ケイ子
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――それで少し様子を見て回復してきたらいいですが、意識がなかったり、呼びかけてもボーっとして返事がないような場合は救急車を呼ぶということですね。『いのちをまもる図鑑』の中に、くわしい対処法が書いてあります。その場では大丈夫だと思ったけれど、あとからひどくなってくるようなことはありませんか?

西:ほかに障害がなければ、いったん回復したあとに悪くなることはないです。ただ、完全に回復せずにまた無理をして悪くなったりすることはあります。また、一度熱中症になった人は再発しやすいので気を付けてください。

――えっ、そうなんですか?

西:仕事を含めて何かの作業をしていて熱中症になった場合、配置の転換を指導はしますが、どの程度の作業ならいいのかって難しいですよね。似た環境に身を置けばまた熱中症になる可能性が高いのです。

熱中症に対する病院での処置

――熱中症で救急搬送されてきた人には、どのような処置をするのでしょうか?

西:ひとくちに熱中症と言っても、緊急度・重症度はさまざまです。軽症の場合は、病院に到着した途端に良くなったという人もいます。暑さへの暴露がなくなったことで、回復したわけですね。体温が上がり過ぎて意識もないほど重症である場合は、急速に体温を下げるような処置をします。最重症のケースにはECMO(エクモ)という人工心肺を使った処置をすることもあります。簡単に言うと、血液を全部抜いて、温度を下げてから戻すといったことです。

――ええー!

西:多くは、冷たいジェル状のマットを使って体を冷やしつつ、脱水を起こしているので冷却の目的を兼ねて冷たく冷やした点滴を輸液します。あとは臓器の障害によって必要な処置を行っていきます。どの臓器に障害が起きてもおかしくありません。

それから、とくに高齢者の場合は、肺炎や尿路感染症による発熱なのか熱中症による高体温なのかを区別することも簡単ではありません。

また、別の病気が隠れていることもあるんですよね。脳梗塞や心筋梗塞で動けなくなってしまい、暑い環境から逃れることができず、結果的に熱中症になったといったケースです。

一方、労作での熱中症の診断と治療はそれほど難しくないことが多いです。環境からの逃避が重要で、合併症として脱水と腎機能障害を起こしていることがあり、点滴治療を要することもありますが、入院しても1~2日くらいです。

――軽症の人が多いとはいえ、命にかかわるものだということをあらためて感じました。まだ暑い日は続きますので油断せずに対策したいと思います。

西竜一(にし・りゅういち)
医師。公衆衛生学修士。救急科専門医。南町田病院救急科勤務。帝京大学医学部救急医学講座非常勤講師
帝京大学医学部卒業。救急医として日々あらゆる病気やケガの診察をし、災害時には被災地において医療活動を行う。救急・災害医療の知識を市民へわかりやすく伝える活動も行っている。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。