「もうちょっとだけお願いします」と連呼され
辞めるに辞められず…

 その理由について、アルバトロスの谷本慎二代表取締役はこう語る。

「その方は定年退職後、ある企業にアルバイトとして勤務していた。仕事ができるので教育者として残ってほしいと言われて、がんばって働いてきたという。だが、身体的にきついので辞めたいと告げたところ『もうちょっとだけお願いします』と言われ続けて辞められず、当社に依頼してきた。会社に連絡する場合は、本当にお世話になりましたと、丁重に伝えてほしいとも言われた」

 年輩者ほど長年働かせてくれた恩義を感じる人も少なくない。きっぱりと言えばよいが、そこまで強気に出られない人もいるだろう。

 先述したアレスで退職代行事業部の事業責任者を務める佐藤英一郎氏は、退職代行を依頼するベテラン社員の特性について次のように語る。

「40~50代の人は、特に個人のパーソナリティによるところが大きいと思う。(辞めたいと)自分で言える人は言うし、言えない人は言えない。これまで死ぬ気で一生懸命に働き、会社に尽くしてきたが、『もう限界で辞めたい』と思っても言い出せない人が世の中にはたくさんいるはず。私たちのサービスが出回ったことで、辞めようというきっかけになっているのでは」

 繰り返しになるが、勤務年数が短い人だけが退職代行サービスを利用するわけではない。長年勤務した経験や実績があっても、何らかの事情で言い出しにくい人もいるのだ。

 なお、退職代行というビジネスが海外では珍しいためか、アルバトロスの谷本氏は、いくつかの外国メディアの記者から取材を受けたことがあるという。彼らは異口同音に「日本人はどうして『退職したい』と自分で言えないのか」と質問してきたそうだ。

「海外メディアからの質問に、最初は私も戸惑った。(そこで改めて振り返ると)当社に依頼してくる方は真面目で、どちらかといえば気が弱い人が多いように思った。また、そもそも日本には『思っていることを口に出さないのが美徳』とする風潮があるのではないか。

 たとえば上司から『ちょっとだけ残業してくれ』とお願いされても、『定時なので帰ります』と言える人は少ないはずだ。逆に海外では、相手の意見とは違っていても、自分の言い分を主張するのは当たり前だと記者たちは言っていた。そうした(価値観や国民性の)違いもあるように思う」(谷本氏)