そんな僕ですから、裕次郎の聖地「日活」で撮影し、『太陽にほえろ!』と同じ時間に放送されるドラマに主演する意気込みは、半端なものではありません。この仕事が決まってからというもの、会う人会う人に「僕の意気込みを天国の裕次郎さん本人に伝えたい!」と真面目に語っていました。すると、その思いを耳にしたまき子夫人のご厚意で、成城のご自宅に招待していただくことになったのです。

 仏壇でお線香を上げ、しっかりと手を合わせ「金曜8時、全身全霊で挑みます」と報告。この時、まき子夫人から、裕次郎さんが愛用されていた青と赤のレジメンタルのネクタイまでいただきました。

 ドラマの制作発表会見には、その形見のネクタイで臨み、それ以後も、結婚会見、芸能界の大先輩と共演するここ一番の収録といった、人生の節目節目に必ず身につけています。締める度に、裕次郎さんの魂を感じる宝物です。

 撮影所の中でも、裕次郎さんの「姿」を感じていました。裕次郎さんの歩いた廊下、セットチェンジを待った楽屋、衣装合わせをした部屋……その残り香に興奮する僕に、日活のベテランスタッフさんたちは、「これは、裕ちゃんが着ていた衣装だよ」「裕ちゃんは、いつも、この辺に座っていたなぁ」と、若き日の裕次郎さんのエピソードを嬉しそうに話してくれました。酒を愛し、昼間からビールを飲んでいたという逸話を持つ裕次郎さんの専用冷蔵庫もあったそうです。

石原裕次郎になりきって
こなしたハードスケジュール

『静かなるドン』は撮影方法も、裕次郎さんの映画同様、「ワンカメ」で行われました。当時既にドラマも映画も、ワンシーンを何台ものカメラで同時に撮る「マルチカメラ」が主流となっていましたが、『静かなるドン』は、1台のカメラでワンカットずつ撮っていきます。ワンカット撮っては、「カメラ切り替えまーす」「照明立て直しまーす」と、とにかく時間がかかる……。

 しかも、僕が演じた静也は“昼は下着メーカーのデザイナー、夜は3代目総長”と2つの顔を持つ役です。昼は、石田ゆり子さんや石倉三郎さんと会社のシーンを撮影し、夜は白いスーツに着替えて、鹿賀丈史さんや阿藤海さんとシリアスなシーンを撮る。そんな撮影が週5日みっちりの、超ハードスケジュール。それでも不思議なほど疲れを感じなかったのは、僕が、石原裕次郎に“なった”からでした。

 撮影現場では、スタッフもキャストも、僕を「3代目!3代目!」と呼んでくれて、まるで映画の看板スターを扱うように盛り立ててくれました。