睡眠をどれだけ楽しいと見るかは人それぞれだとしても、不思議なのは、人間が生きるうえでなぜ睡眠が必要なのかがいまだ科学で解明されていない点だ。それでも、どうやら必要であることは間違いない。食事を抜くほうが睡眠を抜くより長く続けられる。24時間ずっと起きているなどして、多少の睡眠が奪われただけでも、酩酊状態と同じくらいに認知能力は損なわれる。

 多くの睡眠科学者が信じるところによれば、私たちは少ない睡眠で済むように体に教えこむことができない。睡眠時間を減らせば睡眠障害が積みかさなって、行動の遂行能力が落ちるだけだ。いずれはかならずしっぺ返しが来る。

 一度にまとめて眠るより効率の良い眠り方があるとの説もある。事実、ほんの数世紀前の私たちの祖先は、短めの睡眠と覚醒を交互にくり返して、全体としていまより少ない時間を眠りに費やしていた。このやり方を二相睡眠という。

「寝ずに戦える兵士がほしい」
アメリカ国防総省も研究中

 人間が睡眠なしに生きていけるとしたら、世界中の軍隊がその方法を知りたがるに違いない。『ニューヨークタイムズ』紙の記事によると、ハリモモチュウシャクという鳥は、渡りのためにアラスカからマーシャル諸島まで1万キロ近くもノンストップで飛ぶ。平均時速が30キロ程度だとすると、13日あまりも眠らないことになる。

 アメリカ国防総省の研究開発機関である国防高等研究計画局(DARPA)は鳥類を調べ、兵士も同じことを継続できないかどうかを研究している。もちろん、「飛ぶ」部分ではなく「ずっと起きている」部分だ。

 あの手この手で兵士に活力を与えようとするのは、昨日や今日に始まった話ではない。ナチスドイツがフランスに侵攻し、電撃戦で国土を破壊しつくしたとき、軍は兵士にアンフェタミン(覚醒剤の一種)を与えて何日も覚醒した状態を保てるようにしていた。一度に行軍できる距離も伸ばした。

 しかも、興奮剤で兵士をハイにすることは100年以上前から行われている。第一次世界大戦では軍で広くコカインが用いられていたし、それ以前にも兵士に薬物を使用させる行為は少なくとも古代ギリシャにまでさかのぼる。