潜入取材だからこそ見えてきた
アマゾン×出版社の新しい取引実態

 アマゾンでは、物流センター内にネット回線を張り巡らせて、本を棚に入れる際、本のバーコードと棚のバーコードを読み込み、それをホストコンピュータに送り、本の位置を管理するからだ。この保管方法の最大のメリットは、空いている場所があれば、何をどこに保管してもいいため、棚入れの作業が簡単となり、しかもスペースを有効に使うことができる点にある。当時は画期的なことだった。

 もう一つ見つけたのは、アマゾンが出版社と直取引を行っていることを示す納品書だった。

 本は通常、出版社→取次→書店という流れで届けられる。この中間の取次をすっ飛ばすのが直取引だ。日本上陸直後から、アマゾンは自らの利益を増やすため、この取次を省いて、出版社との直取引に乗り出すのではないか、といわれていた(現在は、アマゾンと直取引する出版社が増えてきている)。

 ピッキング作業中の私は、箱単位で納入された本の段ボール箱の中から直取引の証拠となる納品書を見つけた。そこには〈ほぼ日刊イトイ新聞〉を運営する東京糸井重里事務所が出版した『言いまつがい』を、返品なしの買い切りを条件に50冊を掛け率65%でアマゾンに販売する、と書いてあった。〈ほぼ日刊イトイ新聞〉とは、コピーライターの糸井重里が立ち上げたウェブ媒体で、当時は連載企画から生み出した本がヒット作となっていた。東京糸井重里事務所は、その本を販売する新興の出版社という立ち位置だ。

 本を掛け率65%でアマゾンに販売するということは、書店であるアマゾンの取り分は35%となる。

 出版業界における通常の取り分は、出版社が70%、取次が8%、そして書店が22%──という比率だ。しかし、『言いまつがい』の直取引では、この比率が大きく崩れる。こうした動きは、微妙なバランスの上に成り立ってきた出版流通にとって蟻の一穴となり、それまでの仕組みを瓦解させることになるかもしれない。このような不安が業界内にあった。私が見つけた納品書は、その不安を裏付けるものだった。

 本の流通においては、全体で4割前後という高い返品率が業界を苦しめてきた。だが、同時に、取次が物流機能だけでなく金融機能も果たし、返品まで受け入れることで、業界の裾野が広がってきたことも事実だ。

 返品率の高さと、書店の取り分の低さを改善することは、出版業界にとって喫緊の課題となっていた。その解決策の一つとして模索されたきたのが取次の中抜きだった。けれども、業界のしがらみが強いこれまでの老舗の書店では難しい。アマゾンはそこに風穴を開け、書店と直取引をするのではないか、と見られていた。

 直取引は何ら法に触れることではない。しかし、それまでの出版流通の業界秩序を乱す行為とみなされていた。