トヨタとアマゾンを隔てる
決定的な違いは「希望の有無」

 この点について、潜入取材後に東京糸井重里事務所へ取材すると、「『言いまつがい』を値引き販売しても構いません」という担当者の答えが返ってきた。

 さらに聞いていくと、こう言われた。

「私たちは、出版社であることにこだわっていません。今回は、出版社の形を借りて、取次の仕事までしてみただけです。それも実験です。それに売れない本は作らないから大丈夫です」

『潜入取材、全手法』書影横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)

 売れない本は作らないと言い切るとは、なんて無邪気なんだろう、と思いながら私は聞いていた。

 この潜入取材の当初の目的だった労働問題については、いったい何が分かったのか。

 半年のアルバイト生活で見えてきたのは、アマゾンが砂を嚙むような味気のない職場であることだった。私はこう書いた。

「トヨタの工場が『絶望工場』たりえたのは、当時はまだそこに〝希望〟があったからにほかならない。おそらくそれは、工員でもいいから大企業の社員となれば一生家族を養っていくことができる、という希望だ。アマゾンのような職場にはそんな希望さえ求めることは難しい。この希望の有無こそが、トヨタとアマゾンを隔てる決定的な違いである」