潜入取材が企業の口をこじ開け
情報を引き出した
私は働くと同時に、〈羽田クロノゲート〉内に置いてあった、ヤマト運輸の社内報や同社の労働組合の発行する機関誌、統計数字の載った貼り紙などから、1人当たりの労働時間や残業時間や、平均給与などの情報をせっせと収集した。
そうした労働環境に関する情報を加えて、再度、ヤマト運輸に取材を申し込んだ。
広報担当者が即座に、聞いてきた。
「横田さん、うちの会社に潜入取材などをなさっているんですか」
進んで潜入取材を認める気もないが、ウソをつきたくもないので、私は「いろんな手段で情報を集めています」とだけ答えた。
その直後に、ヤマト運輸の幹部(翌年、社長に就任)が取材に応じてくれることになった。3時間のロングインタビューとなった。取材の間、「横田さんは、すでにクロノゲートでお働きになっておられるので、おわかりのことと思いますが……」という言葉が何度も飛び出すのを聞きながら、潜入取材が功を奏して、このインタビューにつながったことがよくわかった。
ヤマト運輸としては、あれこれと隠し立てをするよりも、説明をつくして書いてもらおうという気持ちが起こったのだろうか。私が働いていた〈羽田クロノゲート〉での取材も受けてくれ、7階建ての建物を現場の責任者の説明付きで案内してくれた。それまでは会社の意向を受け、取材を拒否してきた労働組合への取材も実現した。
これで宅配業界の主役であるヤマト運輸の取材が一気にはかどり、本を書き上げることができた。
潜入取材が、頑なになっている企業の口をこじ開け、情報を引き出した稀有な例といえるだろう。