新たな問題を追及するも
社長は私から逃げつづける

 先行して取材していたおかげで、未払い残業代に関する新たな問題が見えてきた。

 変形労働時間という問題だ。

 やや細かい話となるが、1日の労働時間を8時間とするのではなく、月間160時間として、でこぼこのある労働時間を1日平均で均して残業時間を圧縮しようとする労務管理の裏技だ。ヤマト運輸は、同社のドライバーには、この月間変形労働時間制度が当てはまると主張する。

 だが、先に労基署に駆け込んだ元ドライバーたちの労働審判では、この変形労働時間が認められず、ドライバーに支払いを命じられた未払い残業代は、ヤマト運輸が当初想定していた金額の約3倍に上った。

 ヤマト運輸が全社的に未払い残業代を払う際の焦点は、労働審判で認められなかった変形労働時間を全社的に適用して、違法に低い額に抑えていないかどうかという点にあった。もし、変形労働時間を適用外として計算するのなら、残業代が600億円にまで膨らみ、赤字決算に陥る可能性もあったからだ。

 ところが、私が変形労働時間に的を絞って取材していることがわかると、ヤマト運輸側は再び、私の取材を全面的に拒否するようになる。一度は私との単独取材に応じた社長の記者会見でも、私の質問を受け付けず、その後も、社長は私から逃げつづける。

 広報担当者も、私の質問に対し「変形労働時間についてはわかりません。横田さんと議論する気はまったくありません」と逃げの一手。

 しまいには、ヤマト運輸の本社から全社一斉に、「(秘)記者の入社に関する注意喚起」という件名で、「記者の横田増生氏がヤマトへの入社を目論んでいる可能性があります。現在は、当社の月間変形労働時間制の適用是非について執拗に追いかけている状況です」と書いたメールを送信している。

 メールには、私を特定できる個人情報も含まれていた。

 いくら何でもやり過ぎだろう、と思った私が同社に抗議して謝罪を求めると、こういう答えが返ってきた。

「お尋ねの件は、個人情報保護の観点からお答えできません」

 ウソのような、本当の話である。