宅配業界の労働問題の闇
ヤマト運輸は未払い残業代200億円超

『仁義なき宅配』では、物流センターだけでなく、宅配便を配送するトラックや深夜の長距離トラックにも横乗りという形で体験したことを書いた。

 そこで聞こえてきたのは、アマゾンなどのネット通販の荷物が激増するのに対応しきれずに、悲鳴を上げている現場からの声だった。業界が制度疲労を起こしていた。

 かつて、宅配業界は「3年働けば家が建つ」といわれるほどの高給を誇ったが、それも昔話となり、今や大卒のドライバーの初年度の年収は300万円台という有様。給与が低いだけにとどまらない。1日平均で3時間のサービス残業を強いられているドライバーからも話を聞いた。

 何人ものそうしたドライバーの話をつなぎ合わせていくと、個別の単独の事例というより、組織ぐるみの残業隠しを疑わせるような証言がいくつも出てきた。過労死の事例も、未払い残業代の支払いを求めてドライバーが裁判に訴え、勝訴したケースもあった。

 残業代を払わないことを前提とした職場は、いつ崩れるのかわからない「砂上の楼閣」だ、と私は指摘することとなる。

 崩壊しかかっていた宅配業界の労働問題の闇が白日の下にさらされるのは、17年のこと。ヤマト運輸の元ドライバー二人が、それまでの未払い残業代を支払うように求めた労働審判を起こした。同時に、労働基準監督署にも是正を訴え、それを受けて労基署がヤマト運輸に対し、違法な労働時間や未払い残業代に関する是正勧告を出したのだ。

 こうした動きが政府の目にとまり、従業員の過労死問題で強制捜査が入った電通と同様に、ヤマト運輸にも強制捜査が入るのではないか、という場面もあった。

 進退窮まったヤマト運輸は、全ドライバーに200億円を超す未払い残業代を支払う事態に追い込まれた。未払い残業代の200億円超というのは、前代未聞の数字である。厚生労働省が毎年集計する、日本中の未払い残業代の合計の数字が、1年で100億円前後に収まることからすると、ヤマト運輸の悪質さが突出していることがわかる。

 しかし、それ以前から宅配業界に関して独自に調べてきた私にとっては、当然の帰結だった。