潜入取材という手法をとることで
ドライバーという強い味方ができた

 70年代に『原発ジプシー』を書くために、原発の現場で働いた堀江邦夫が、潜入取材後に労働者の被曝歴を記録するために設立された〈放射線従事者中央登録センター〉を訪れ、自分の内部にどれだけ放射線が蓄積したのかを教えてくれと申し込んだ時のことだ。

「プライバシーにひっかかるから、教えられない」

 そう断られていたことを思い出した。

 いつの時代であっても、いい加減な仕事をしている人は、同じような愚かな言い訳を口にするのだ。

『潜入取材、全手法』書影横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)

 ちなみに、この『原発ジプシー』の衣鉢を継ぐ作品として、私と同年代の鈴木智彦が書いた『ヤクザと原発 福島第一潜入記』がある。

 ヤクザが主役の実話誌出身の鈴木が東日本大震災の直後、ヤクザが仕切る孫請け会社で働くことで、事故を起こした原発の修理作業に潜り込んだ決死の潜入ルポである。高濃度の放射線が充満する現場で、宇宙服のような防護服を着て従事する作業には、読む方までも息苦しくさせる臨場感がある。一読することをお勧めする。

 正面玄関から取材拒否にあっても、私のもとにはヤマト運輸の情報が続々と集まってきた。取材で知り合った多くのドライバーたちが、情報を提供してくれたのだ。

 変形労働時間については、元ドライバーが労働審判の資料を全部コピーさせてくれた。全社一斉メールなどの情報を教えてくれたのは、別のドライバーである。さらに、彼らが送ってくれた内部資料には、未払い残業代の問題が世間を騒がしているさなかでも、年間10件近くの未払い残業代があることが記されていた。

 潜入取材という手法をとることで、ヤマト運輸の本社には嫌われたが、本社に虐げられてきたドライバーという強い味方ができた。彼らが私の情報源となり、記事として発信することができた。