そういう言葉は基本的には、新聞や雑誌の写真と大見出し、小見出しをセットで映像で記憶します。そして話をするときには、映像で思い出します。

 一方で、言葉の響き、単純に音が好きというのもあります。たとえば、「ドリス・ヴァン・ノッテン」というベルギーのブランドがあります。正確な発音はネイティブじゃないからわかりませんが、不思議な音だなと思ってインプットする。それは映像記憶とは違って、脳の言語野の倉庫に入れます。

 最近の若い人が使う、自分のボキャブラリーにはない言葉の使い方なども逐一おもしろいなと思います。自分では使わないけれど、インプットする。

 たとえば、「古舘さんの言ってること、鬼わかる」って若い女の子に言われた時に、自分は恥ずかしいから使わないけれども、「鬼わかる」っていう言葉を発明する若者の才能にグッときますよね。すごいなと思います。

「神回」とか「神対応」とか、さらには「神ってる」と動詞にまでいく。自分は使わないけど、おもしろいと思って収集します。クセです。

これからも
「しゃべり」で暴走し続ける

――古舘さんは子どもの頃から自意識が強かったとのことでしたが、本書でも「自意識の悪魔」という表現で、本番で話をする時に相手の反応が気になって、自信を失ったりして、話がおもしろくないんだなと思い、さらにうまく話せなくなると書かれています。どのように自意識をコントロールされていますか。

 昔に比べると自意識はだいぶ鈍くなったと思います。それはしゃべり続けることによって、恥ずかしさや衒いが離散していくようになったからです。むしろ、いまではしゃべりで暴走し続け、相手を混乱状態にして、煙に巻こうと考えているくらいです。

PROFILE
古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)

1954年東京生まれ。立教大学卒業後、1977年テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「ワールドプロレスリング」などを担当。鋭敏な語彙センスとボルテージの高さが際立つプロレス実況は「古舘節」と称され、絶大な人気を誇る。1984年、フリーとなり、「古舘プロジェクト」設立。F1などでムーブメントを巻き起こし、「実況=古舘」のイメージを確立する。また、3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由な喋り手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。ライフワークとして1988年からスタートしたトークライブ「トーキングブルース」は、""一人喋りの最高峰""と称され、厚い支持を集める。著書に『喋らなければ負けだよ』(青春出版社)、『言葉は凝縮するほど、強くなる』(ワニブックス)、『MC論』(ワニブックス)、『喋り屋いちろう』(集英社)など。

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