CDOは企業のボブ・マーリーを目指せ!

──それは「共創」を最適化していく、みたいなイメージですか。

 単に最適化するだけでなく、それを「表現」したい。お手本はボブ・マーリーです。

──レゲエの神様のボブ・マーリーのことですよね。どういう意味でしょうか。

 ボブ・マーリーは、ジャマイカが政治的に混乱していた1978年、敵対していた右派、左派の両政党のリーダー2人をコンサートに招き、ステージに上げて握手させました。これは表現のものすごい力です。クリエイティブ業界には、というか、日本にはボブ・マーリーが必要だと思います。

「地域を良くしたい」とか「社会を良くしたい」とか、目的そのものは同じなのに、アプローチの違いで対立し、全体として解決が進まないという例が、世の中にはたくさんありますよね。企業活動でも、競合に負けないことを最重要課題にしていると、結果的に全てのプレーヤーが似たような戦略で、市場を小さく固定化することになります。

──似たような課題として、サイロ化の弊害を社内に抱えている大企業も多いですね。

 東京の街が金太郎あめ化しているのもそのせいじゃないでしょうか。有力デベロッパーがそれぞれに似たような開発を繰り広げて、東京全体としての価値創造につながっていない。本来なら、A社はにぎやかな商店街を、B社は世界的なエンターテインメントを、C社は快適なオフィス街をと、デベロッパーがそれぞれ得意分野を生かしたまちづくりをした方が個性的な場が生まれやすい。そうした場を組み合わせることで相乗効果が生まれ、ビジネスも大きくなるんです。なのに、それぞれが手の内は明かさず、自社の中で最適な街づくりをしてしまう。だったら、僕みたいな立場の人間が、頭の中でうまく利害やリソースを組み合わせた方が、新たな表現が生まれるのではないか、と。

 「共創」を成功させるには、二つの要素が必要です。一つは旗を立てること。つまり、何を着眼点にして、何を解決したいのかを分かりやすく示してアウトカムを明確化しなくてはいけない。もう一つは伴走すること。関係者の話をしっかり聞き、パズルを組み合わせて、会うべき人に会わせて、行くべき場所まで手を引っ張っていく。そこまでやらないと共創なんて起きません。

──CDOがその二つを担える存在になれば、経営に欠かせない存在になりますね。

 そう思います。研究開発部門でやっていること、経営企画部門で語られていることの間にクラッチとして入っていき、きちんと手をつながせる。俯瞰して、社内の資源をつなぎ直していく。それが圧倒的に大事だと僕は思いますし、それが実現すれば、CDOは「経営企画」というより「経営R&D」みたいな存在になれると思っています。