柳井正社長が裁判を起こした理由

 訴えられたのは文藝春秋であり、著者である私は訴外(そがい)だった。

 端的に言えば、ユニクロが2億円超の支払いを求めているのは、文藝春秋であって、私ではない。ならば、「あぁ助かった」と思うかといえば、そんなことはない。

 書籍や雑誌記事を書いたのは私なのだから、この裁判は私に対するユニクロの攻撃であり、私自身がユニクロ側の言い分をはねのけない限り、私の著作物が正しいことを証明することはできない。

 柳井正は当時の社内文書で裁判を起こした理由をこう語っている。

「文芸春秋に対して訴訟を行った。『ユニクロ帝国の光と影』という書籍と、この書籍の前提になった週刊文春の記事について、名誉毀損を理由として、東京地裁に提訴している。

 この書籍は、ユニクロが収益を上げ、成長しているのは、社員やお取引先の犠牲の上に成り立っているという誤った印象を与えるような内容となっている。高収益を上げ、急成長を遂げているユニクロは、低価格と高品質を両立した商品を実現するために、店舗の社員やお取引先の労働者から搾取している、という内容が書籍に書かれている。

 しかし、我々はそのような恥ずべき行為は決してしておらず、万が一、不適切な労働実態などがあれば、真摯にそれを正していく企業である。社員の皆さんには、自分達の会社に誇りを持ち、自分達の仕事の正しさに自信を持って頂きたいと思っている」

 柳井社長、ご立腹である。その逆鱗に触れたことで、裁判が始まったのだった。