的外れなユニクロ弁護士

 ユニクロ側の弁護士の質問は、終始ピンボケといおうか、的外れというべきか。私が聞いていても、「そんなので大丈夫なのか」と心配になるほどだった。鋭いとか、突かれて痛いな、という質問は一つも飛んでこなかった。

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 例えば、中国工場のことを書いた「週刊文春」に「ユニクロ 中国『秘密工場』に潜入した!」とある見出しの潜入という言葉について、何度も聞いてる。

 弁護士いわく。

「辞書によると、潜入というのはこっそりと潜り込むと書かれてありますけど、こっそり工場の中に入って直接体験したのでしょうか」

 潜入の定義に関する質問が10回以上続く。

 誤解のないように書いておくが、私はユニクロの中国工場に潜入してはいない。雑誌の見出しは、煽り気味につけるため、「潜入」という言葉が入っているだけで、私が労働者を装って潜入していないことは、法廷にいる誰もが分かっているはずだった。しかも、裁判で争われている論点とは何の関係もなかった。

 私が神経に障るなと思ったのは、工場の女性工員から話を聞いた様子について、こう指摘されたときのこと。雨が降る中で、工場の周辺で20分ほど彼女たちの話を聞いたことを私に確認した後、弁護士はこう言った。

「言葉は悪いんですけれど、いわゆる街頭アンケートみたいなものですか。よく街角、渋谷とか新宿でやっている街頭アンケートとかキャッチセールスみたいなものですか」

 ふざけるな、と思った。

 取材は、街頭アンケートやキャッチセールスとは全然違う。私は名刺を渡してジャーナリストと名乗ったうえで、相手の名前や年齢を聞いてから取材しているのだ。おまけに、取材相手の写真も撮っている。そう反論した。

 改めて証言を書き起こした裁判資料を読んでも、気の抜けたような質問だったという印象は変わらない。

 証人調べの最後に、裁判官から質問があった。

 ユニクロの現役店長に取材したのは1人だけなのか、どのように店長だと確認したのか、という質問。私はその質問に答えながら、やはり争点となっているのは現役店長の証言なのだな、と確信した。

>>中編『ユニクロが自ら「ブラック企業」認定?文春裁判で“まさか”の敗訴』に続きます