港に浮かぶクルーザーの正体

「時間があったら見ていただきたいものがあります」

 前回の取材のときにも柴山さんはそう言っていた。彼女の案内で付近のヨットハーバーに向かっていた。その港に、一隻の大型クルーザーが停泊しているというのだ。

 施設の見た目ばかりを気にする一例として、その船を私に見せたいとのことだった。

「あれが真理の丘が持っている船です。船体に真理の丘と書いてあります。3ベッドルームを備えているんですよ。利用者さんのためにその船を使っていると思うでしょ? でも、利用者さんを乗せてクルーズしたことなんて、私が知る限りはありません。もちろんスタッフの福利厚生のためでもない

 柴山さんは続ける。

このクルーザーは、オーナーのご家族が使っています。それに、普段は倉庫代わりとして、パーティーのときだけ使用するワイングラスをしまっているんです」

 耐用年数が短いことで知られるクルーザーは、税金対策として保有している法人も少なくない。

 また施設はメルセデス・ベンツのキッチンカーも所有しているといい、運動会など年に数回のイベントのときだけ利用されているそうだ。

 真理の丘が、豪華なクルーザーやベンツのキッチンカーを所有する目的は、税金対策なのか、あるいは見栄なのか。その真意はわからない。

 ただ言えるのは、これらが真理の丘の“高級”を演出する道具の一つになっているということだろう。

(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。