近年の移民急増は社会的なあつれきを生む一方で、マクロ経済的にはコロナ禍後の深刻な人手不足と賃金上昇圧力を和らげる重要な役割を果たした。ロックダウン解除後に増加した労働力供給の内訳を見ると、半分以上は海外生まれで賄われていた計算だ。

 ベビーブーマー世代が早期引退を選ぶなど、米国生まれの労働者の労働市場復帰が遅れた一方、働かないと食べていけない移民の労働参加率は極めて高い。これがなければ賃金とインフレの悪循環が進行して、米国経済はもっと苦しい展開をたどっていたはずだ。

 米国でも少子高齢化問題はひとごとではなく、労働力確保の上で移民への依存度は高まる一方だ。議会予算局は今後10年間で予測される人口増加のうち約7割は移民増加によるものとみている。

 近年の行き過ぎた移民流入に対してバイデン政権も既に抑制策を打ち出しており、議会予算局も当社も数年後には移民流入は年間100万人程度に収斂すると見込んでいる。トランプ氏が再選すれば、一段と大幅な削減が見込まれる。

 過度の移民制限による経済的ダメージは大きい。労働供給が減ると米国の潜在成長力を有意に押し下げる。何よりも米国経済の生命線であるダイナミズムやイノベーションを維持する上でも移民は鍵を握る。移民は米国生まれの労働者に比べて起業する割合が高く、起業したビジネスの生存率や雇用創出力も相対的に高い。また、厳しさを増す財政面でも社会保険や医療制度の持続可能性を高める上で、移民の貢献は欠かせない。

(オックスフォード・エコノミクス 在日代表 長井滋人)