飲食業界「激安メニュー」が増加
「デフレ・マインド」が社会に浸透へ

 バブルの後始末を先送りすればするほど、不況は深刻化する。不良債権残高が増えるほど、金融システムの不安定性は高まる。中国政府は国有・国営企業など供給サイドの成長を重視していることもあり、生産能力は膨張傾向にある。不動産以外の業種でも債務問題の深刻化、収益性の低下によって人員カットを含むリストラを余儀なくされる企業は増えるだろう。

 そうした展開を懸念し、中国から脱出する企業が増えている。すでに、独フォルクスワーゲンなど、海外企業が中国自動車市場で収益を得ることが難しくなっている。9月中旬、フォルクスワーゲンは、上海汽車集団(SAIC)と合弁の南京工場の生産停止を計画していると報じられた。中国企業は海外市場に進出して生き残りを目指そうとしており、アリババやテンセント、BYDなどの大手だけでなく、中小・新興企業も後を追っている。

 この動きに伴い、雇用機会や優秀な人材も中国国内から海外に流出することになる。中国国内では、雇用環境の悪化を懸念する消費者が増えている。2024年の中秋節休暇中(9月15~17日)、中国の国内旅行者の1回当たりの支出額は、コロナ禍前19年と比べて1.6%増にとどまったようだ。先々の雇用・所得環境の悪化に備え、レジャー支出を抑え、貯蓄に励む国民の増加を示唆している。

 節約を志向する人の増加に合わせ、飲食業界では「激安メニュー」が増加している。朝食を3元(約60円)で提供するファストフードチェーン「南城香」の人気が上がり、ピザハットやマクドナルドなど外資企業も格安メニューを投入せざるを得なくなっている。

 今のところ中国政府は、日米欧が懸念するEVの過剰な生産能力を解消する考えを示していない。これからも、中国では値下げ競争の激化により企業の収益性は低下し、不動産以外の業種でも不良債権は増加すると予想される。

 このままでは、景気の低迷は長引き、支出を抑え低価格のモノやサービスを買い求める「デフレ・マインド」が社会に浸透するだろう。中国経済は、わが国が経験した長期低迷の暗闇に、足を踏み入れつつあるように見える。