世の中には「働くおじさん」と
「働かせるおじさん」がいる

 そもそも、学卒の集団就職は歴史的に日本と韓国の一部にしか見られない特殊な状況である。欧米人と話すと、日本では入社式があることに驚かれる。新入社員を並べて社長が訓示する光景は珍しいという。海外では随時、社員が入社するので日本のような「同期」の意識はない。仕事を通じた平等な紐帯が基本だ。

 日本では、会社という組織で働くイメージはしやすい一方で、それ以外の選択肢を学生はイメージしにくいのかもしれない。これ以降はごく個人的なエピソードに基づいたアドバイスだが、就活をする人に伝えておきたい。

 かつて私は大阪の不真面目な学生で、居酒屋でバイトをしていた。酒場とはさまざまな人がいる場所であり、そこの客との出会いは、忘れがたい思い出がいくつもある。中でも、京都大学出身(と自称していた怪しげな)企業経営者は、必ずペットを連れて、隣には奥様と呼ぶにはやや若い金髪の女性がいた。2人がどのような関係だったか知る由もないが、なぜかその男性は学生バイトである私を気に入って多くの人生訓をくれた。

 特に印象に残っているのは、「働くおじさんってよく言うけど、働かせるおじさんだっているんよ。俺が、その働かせるおじさんで、こっちのほうが儲かるんだけどな」という卓見だった。世の中にはいろいろな会社の働くおじさんがいるとは思っていたが、働かせるおじさんに会う機会は少なかったので、若い頃にこういうせりふを聞いたことは良かったと思っている。

 起業ブームとか騒がれているが、まだまだ会社員人生を選ぶ人のほうが圧倒的多数だろう。学生も、会社は入るものと認識し、働くおじさんを志望している。会社に入れば、働くお兄さん、お姉さん、おじさん、おばさんがたくさんいる。

 一方で、試しに「会社のつくり方」をYouTubeで検索してみてほしい。「こんな簡単に会社ってつくれるの?」と驚くはずだ。実際、法務局など必要機関に書類を持って行けば会社設立はできてしまう。

 もし、働くことに関して何かモヤモヤしている人がこの記事を読んだら、「そういう選択肢もあるのかなあ」と、少しリラックスしてみてほしい。友人に、米国の有名企業のスタートアップ時のエピソードさながら、「今から会社をつくりにいかない?何するかって?とりあえずつくりながら考えようよ」と声をかけてみるのもアリかもしれない。働くことの解は一つではないし、就活で人生が全て決まるわけでもないのだから。