真に社会保障制度改革に向き合えば、誰かしらから異論が出てくるはずである。それは、改革とは、限られた予算のもとで、既存の負担および給付構造を変えることとなるためだ。例えば、年金受給世代に追加的な負担を求め、それをもって、将来世代の負担を抑制するとなれば、年金受給世代から不満の声が出てくるであろう。あるいは、医療費の効率化を図るため、提供体制を改革すれば、病院、診療所、薬局などのなかから反発が出てくるであろう。誰にとっても丸く収まる改革などあり得ない。
そうした観点からすると、安倍政権が、真の意味での改革に向き合うのは、これからなのだと言える。では、安倍政権は、社会保障に関してどのような課題に取り組まなければならないのかを、3回にわたって考える。第1回目は年金改革を取り上げる。
日本総合研究所調査部上席主任研究員。1989年3月一橋大学社会学部卒業、同年年4月三井銀行入行、98年より現職。2002年年3月法政大学修士(経済学)。主な著書に『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社、11年6月)、『年金制度は誰のものか』(日本経済新聞出版社08年4月、第51回日経・経済図書文化賞)など。
アベノミクスによって、わが国がデフレを脱却し、消費者物価上昇率2%が確保され続けるならば、それは年金財政にとって福音となる。2004年の年金改正で導入されつつ、当初の意図に反し、今日まで全く機能していないマクロ経済スライドがいよいよ機能し出すためだ。マクロ経済スライドとは、いわば、インフレを利用し、政府が国民に負う年金債務を実質的に削減していく仕組みである。
もっとも、デフレ脱却に向けた取り組みと成否にかかわらず、早晩、安倍政権は年金改革に向き合わなければならない。デフレを脱却しマクロ経済スライドが機能するということは、例えば、個々の年金受給者にとって給付水準の低下を意味する。その影響度合いを広く共有した上で、必要に応じ低年金者対策など手当を講ずる議論が必要である。あるいは、デフレが続く場合に備え、マクロ経済スライドが機能するよう万全を期しておくことも必要である。