米マイクロソフトは今夏、AIを搭載したパソコンの新シリーズ「Copilot+ PC」を投入した。開発した狙いは何か。同社が注力する生成AI「Copilot」を端末に組み込むことで、何を実現できるのか。特集『生成AI 大進化』の#18では、マイクロソフトの開発チームの幹部であるスティーブン・バティーシュ氏を直撃し、開発の舞台裏やサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)の“命令”について明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
AIの計算処理に適した新しいマシンが必要
PC上でAIを常に動かし魔法のようなことができる
――Copilot+ PCの開発で実現したかったことは。
コンピューターの歴史をひもとくと、計算能力の向上で、より使いやすいソフトウエアが登場するというパターンが繰り返されてきました。例えばかつてのコンピューターはパンチカードを活用してデータを処理しており、われわれの若い頃はDOSプロンプトでプログラムを実行していました。(中央演算処理装置〈CPU〉の内部の記憶装置である)プログラムレジスタは、人が直接扱うことはとても難しいですが、計算能力のあるコンピューターならばとても便利です。
増加した計算能力によって、コンピューターの機能を抽象化するソフトウエアを作成し、それを扱うソフトウエアを使用することでコンピューターがより使いやすくなる。これをインタラクションテクノロジーと呼ぶのですが、コンピューターの歴史ではこのパターンが何度も繰り返されています。パンチカードマシンからデスクトップパソコン(PC)、モバイルコンピューティング、ウエアラブル端末などへと進化していきました。
このパターンは継続しており、AIによって人々はコンピューターをもっと簡単に利用できるようになります。ただし、AIの計算処理に適した新しいマシンが必要です。
AIの処理はCPUやGPU(画像処理装置)とは異なり、テンソルという数値形式が使われます。Copilot+ PCはテンソルに適したように設計し直しています。これにより、デバイス上で高度な言語モデルを実行できるようになりました。
例えばCopilot+ PCで私の好きな機能の一つは、(AIが描画を支援する)「コクリエーター(Cocreator)」です。ペイントソフトで描画する際に、一筆ごとに画像が生成されます。一筆ごとにAIに指示しているようなものです。以前のAIはクラウド上に置かれているため、プロンプトで指示してその答えが届くまで待つ必要がありました。
また、Copilot+ PCの特徴は45TFLOPS(テラフロップス)という仕様で、毎秒45兆回の高速演算処理が可能です。PC用の強力とされるCPUの2TFLOPSよりも大量の計算ができます。
違いは計算力だけではありません。2TFLOPSのCPUの消費電力は30ワットですが、Copilot+ PCのAI処理に特化した半導体「NPU」の消費電力は4ワット未満です。これは大きな差です。GPUもまた大量の計算を実行できますが、電力消費が多く、デスクトップの場合は数百ワットを使います。
AIは魔法のようなことを実行できます。背後で常にAIが動作していても、低遅延・低消費電力でバッテリーが長持ちする。AIを搭載できるCopilot+ PCだからこそ実現できるのです。
次ページでは、Copilot+ PCが米クアルコムの半導体を採用した理由などの開発の舞台裏、サティア・ナデラCEOからの開発チームへの“命令”や目指す未来をバティーシュ氏に語ってもらった。