保険ラボ

アクサグループの前最高経営責任者(CEO)のアンリ・ドゥキャストゥル氏から2016年に経営トップの座を引き継いだトーマス・ブベル氏。CEO就任から8年が経過するが、その間に生命保険ビジネスから損害保険ビジネスにポートフォリオを大きく変革した。そこでブベルCEOに、ビジネスを転換した理由と、新たに策定した経営戦略の要諦について話を聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

自然災害の激甚化など気候変動に注目
保険会社として何ができるのか

――今回、京都で開催されたジュネーブ協会の年次会議に参加するために来日されましたが、どのようなトピックに関心を持ちましたか。

 まず、この会議は、世界中の保険会社のCEOのほとんどが出席する重要な会議です。そして多くのCEOと意見交換を行い、相互に理解し合えるようになることが非常に大事なことだと考えています。

 今回、私が関心を持ったトピックは大きく三つあります。1つ目は、地政学的な分断や困難をよりよく理解する方法と、その状況に対して、保険ビジネスモデルをどのように耐久性のあるものにしていけるかということ。2つ目は気候変動であり、いかにして気候変動を管理する手助けができるのか。

 そして3つ目は、社会の結束と分断についてです。保険ビジネスは伝統的に社会の結束の手段となり得るものですが、現在は保険でカバーされていない人々やリスクが増えています。そこで、どのようにしてより良い社会に向けて結束していけるか、保険業界がそれに貢献し続けていけるかです。

――これらの課題について、どのような取り組みが必要だと考えていますか。

 気候変動に対して、われわれが前向きな行動を促す機運を高めることが重要です。われわれは大きな影響力を持つ主体であり、三つの方法があると考えています。

 まず1つ目は、自社の事業運営において何ができるのか。出張を減らすなどでエネルギーの使用を減らし、環境負荷を低減することです。2つ目は、投資家として何ができるか。2015年にわれわれは石炭への投資を止めた最初の企業となりました。それ以降、気候に悪影響を及ぼすものを排除する一方で、エネルギー転換を行う企業への投資を支援しています。そして3つ目は、それら転換に積極的な企業を保険によってサポートすることです。

アクサグループCEOトーマス・ブベル/1973 年生まれ。ドイツ国籍。ボストン・コンサルティング・グループにてキャリアをスタート。2005~08年にかけ、ウィンタートウル・グループ(06 年にアクサが買収)ウィンタートウル・スイスのマネジメントボード・メンバーとしてさまざまなチーフ・オフィサーを歴任。その後、チューリッヒ・グループに在籍しスイスのCEOに就任。12 年にアクサ入社。アクサ・ドイツのCEO及びアクサ・グループのエグゼクティブ・コミッティ・メンバーに就任。15年3月よりマネジメント・コミッティ・メンバーに就任し、16年9月より現職。世界経済フォーラムにおいては、ヤング・グローバル・リーダーに選出された。 Photo by Yoshihisa Wada


――こうした取り組みは経営戦略にも組み込まれているのですか。

 戦略に組み込んでいます。気候変動に対する戦略を慎重に検討し、今では7つのKPI(重要業績指標)を毎年計測して公表しています。さらに、このKPIの大半がわれわれのボーナスにも反映されます。今後、達成すべき目標は決して容易なものではありませんが、自らが取り組むことで社会に行動と変革を促すことができると考えています。

――世界的に自然災害の激甚化が進んでいます。

 世界的に、台風だけでなく「二次災害」と呼んでいる雹(ひょう)や洪水、干ばつ、山火事などの頻度が急速に高まっています。各国政府はこうした問題に公的資金がうまく活用されるよう社会的な変革を管理し、機関投資家は投資の観点からこの動きに貢献することが重要です。

――損害保険ビジネスへのシフトを強める中、保険の引き受けの高度化が重要になります。