変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。
言語化の罠
ビジネスの場で、初対面の人から「仕事は何ですか?」と尋ねられたとき、皆さんはどのように答えるでしょうか。
「メーカー勤務です」「プログラマーです」「〇〇商事の部長です」のように、職種や役職だけをそのまま伝えてしまう方が多いかと思います。しかし、こうした答え方では、残念ながら相手の印象に残りにくい可能性があります。
同じように、OB・OG訪問に来た学生に「御社はどんな会社ですか?」と質問され、「風通しが良い会社です」と答えるだけでは、会社の魅力を十分に伝えられていないかもしれません。
これらのケースに共通するのは、意味のある抽象化ができていない点です。言語化は情報を抽象化するプロセスであり、抽象化は共通項を持つ情報をグルーピングする作業です。言語化によって情報の解像度が下がることは避けられませんが、あまりに曖昧で表面的な表現では、相手に物事の本質が伝わりません。
抽象化が苦手な人と得意な人
抽象化思考が苦手な人の特徴として、情報を整理する際に解像度が粗く、個々の情報がバラバラで共通性を見出すことができない点が挙げられます。たとえば、営業現場で資金回収の問題に直面した場合、抽象化が苦手な人はその場限りの対処療法的な対応に終始し、根本的な問題解決には至りません。その結果、同じ問題が繰り返し発生し、日常業務がエンドレスな対応に追われるだけで、生産性も向上しません。
一方で、抽象化が得意な人は、可能な限りの具体的な事象を集めて、それぞれの共通点を見出しながら抽象化していきます。ただ未入金の顧客に催促して支払ってもらうのではなく、どの顧客で問題が発生しやすいか、何がその原因となっているのかを特定することで、企業全体の仕組みを改善する道を見つけ出します。
このように、抽象化は表面的な解決と本質的な解決を分ける重要なプロセスなのです。
具体的事象から抽象化を鍛える
抽象化思考を鍛えるには、まず具体的な経験や事象に立ち返り、解像度を高めることが重要です。
最初の例に戻ると、会社を紹介する際には、過去3ヵ月間に経験した嬉しかったことや苦しかったことをそれぞれ5つずつ紙に書き出してみましょう。この作業を通じて、「風通しが良い会社」といった漠然とした表現ではなく、具体的なエピソードを通じて会社の本質を伝えることができるようになります。
「全部門が参加する月例会議で、異なる部署の意見を取り入れる文化が形成されている」といった具体的な説明が示せればよりイメージしやすく、相手に強い印象を与えることができるといった具合です。
このように、抽象化思考を鍛えるためには、素材となる具体的な事実や経験を整理し、それらを分析して本質を見出すトレーニングが必要です。この訓練を日々の業務やビジネスの現場で繰り返し実践することで、思考力をブラッシュアップできるでしょう。
アジャイル仕事術では、抽象化思考を含め、柔軟で迅速な働き方を実現するための具体的な方法を多数紹介しています。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。