マイナスの期待にも、人間はしっかり応えてしまう

 期待というと、「ちゃんとできるはず」「頑張ってくれるはず」などといった、いわゆる正の期待をイメージしがちだが、期待には、そうした正の期待ばかりでなく「負の期待」というものもある。

 無意識のうちに、「手が足りないから仕方なく頼むけど、本当は別の人にやってほしかった」「どうせ、いい加減な報告書しか出てこないだろうな」「大した成果は出せないだろうな」といった思いがあると、自然と相手にそれが伝わるものである。こうした思いのことを、負の期待という。

 そして、私たちは相手の正の期待に応えるだけでなく、負の期待にもしっかり応えるものなのである。

 学生時代、落ちこぼれの生徒が、「どうせオレはバカだよ。先生だってオレのこと、バカだって思ってるし」というようなことを言うのを聞いたことがある人もいるだろう。あるいは、先生からいつも「またお前か、本当にしようもないヤツだな」と叱られる、問題行動の目立つ生徒が、「どうせオレはワルだよ。上等じゃないか、また暴れてやるよ」などと言うのを聞いたことのある人もいるのではないか。

 このようなケースでは、劣等生やワルは「先生や周囲の同級生たちの負の期待に応えている」とみなすことができる。つまり、周囲から劣等生だとみなされている生徒は、そうした負の期待に応えるかのように、勉強をさぼり、悪い成績を取り続ける。周囲からワルとみなされている生徒は、そうした負の期待に応えるかのように、先生から叱られるような悪いことをし続ける。そうした心理メカニズムが働くのである。

 逆に、周囲から優等生とみられていると、勉強をさぼって悪い成績を取るということもしにくいものだし、先生から叱られるような悪さをしてストレスを発散するということもしにくいはずである。