「期待すること」の効果~ピグマリオン効果とは?

 そのとっておきの方法とは「期待すること」である。

 人間には“相手の期待に応えたい”という思いがある。とくに私たち日本人は、人からどう見られるかを非常に気にする習性があり、人の目に敏感に反応してしまうものである。ピグマリオン効果という言葉を聞いたことがある人も多いと思う。これがまさに、期待することの効果である。ビジネスの場でも、“上司あるいは周囲の人に期待されること”の効果は非常に大きい。

 ピグマリオン効果というのは、期待する方向に相手が変わっていくことを指す。元々は、心理学者ローゼンタールたちが小学校を舞台に行った実験で、「この生徒たちは知能が高いからこれからぐんぐん伸びるはず」と信じ込まされた教師たちの期待の視線を感じ、その生徒たちの成績が実際に他の生徒たちよりも伸びたことに対して、ピグマリオン効果と名づけたことによる。

「知能が高い生徒が伸びるのは、当たり前じゃないか」と思うかもしれないが、実は、知能テストに関係なく、ランダムサンプリング(抽選)で選ばれた生徒たちだったのだ。それにもか関わらず、知能が高いと信じ込まされた教師たちの期待ゆえに、本当に成績が伸びてしまったのだから不思議だ。

期待されると手を抜けず、つい頑張ってしまう

 似たような結果は多くの研究で確かめられており、成長を願う場合には期待することが大切だとわかる。このピグマリオン効果を企業でのモチベーション・マネジメントに応用しようという動きもみられる。

 たとえば、ある企業で行われた実験では、成績優秀な営業職員集団と平均的な成績の営業職員集団を別々の上司のもとで働かせた。その際、後者の上司は、成績優秀な集団の人たちより優れた潜在能力をもっているはずだから頑張るようにとハッパをかけた。その結果、平均的な能力の営業職員たちの方が著しい成績の伸びを示したのである。

 別の企業で行われた実験では、入社初年度に会社から期待を示されたかどうかとその後5年間の昇進の関係を調べている。その結果、両者の間に強い関係があることがわかった。つまり、最初に会社から大きな期待を受けることが、その後の昇進を早めていたのである。

 このような期待の効果に関する実験結果から言えるのは、【従業員に頑張ってほしいと思うなら、期待を示すことが大切だ】ということである。

 特に人の目を非常に気にする私たち日本人の場合、上司や周囲の「期待に応えたい」「期待を裏切りたくない」といった思いが極めて強いことがわかっている。期待されると、手を抜いたりさぼったりしにくくなるだけでなく、ついつい頑張ってしまうのだ。ゆえに、期待することの効果には絶大なものがあると言ってよいだろう。