5回目の挑戦で自民党の総裁に選ばれた石破茂さんが、第102代内閣総理大臣に就任しました。政治のスタイルにも影響を与えている、石破氏の価値観や信念とは?作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が読み解く。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
小泉進次郎氏に票が集まらなかった理由
5回目の挑戦で自民党の総裁に選ばれた石破茂さんが、第102代内閣総理大臣に就任しました。実は総裁選の直前まで、政治のプロたちは小泉進次郎さんの方が優勢だとみていました。石破さんは、政治資金パーティー裏金事件で収入の不記載があった議員を次の選挙で公認しない可能性をほのめかしていました。自民党の議員たちがそれを嫌がったことが、理由の一つです。
加えて議員たちが心配したのは、石破さんが「日米地位協定の見直しに着手する」と言いだしたことです。2004年に在日米軍のヘリコプターが沖縄県宜野湾市にある沖縄国際大学のキャンパスに墜落したとき、米軍が現場を封鎖して機体を回収し、沖縄県警は立ち入りさえ拒まれました。当時防衛庁長官だった石破さんの「これが主権国家の姿なのか。米国と対等になりたい」というじくじたる思いを、私も共有します。
しかし、防衛省や外務省と綿密に打ち合わせた上で、「こういう方向でやりたい」と言うならともかく、発言は唐突でした。09年、政権交代を控えた民主党の鳩山由紀夫代表が、普天間基地の移設について「最低でも県外」と発言して、後に大混乱を招いたことをほうふつさせたのです。
最終的に進次郎さんに議員票が集まらなかった原因は、“野田佳彦ファクター”でしょう。自民党総裁選の4日前に行われた立憲民主党の代表選挙で、野田元総理が勝ちました。泉健太さんの再選か枝野幸男さんの勝利に終わっていたら、自民党の新総裁は進次郎さんになっていたはずです。