なぜ日本で売られている?

 日本ではどうでしょうか。禁止はおろかトランス脂肪酸の含有量の表示も義務付けられていません。厚生労働省の主張は次のとおりです。

「1日の摂取エネルギーの中で1%以上摂取すると健康上の影響が出現するといわれているトランス脂肪酸に対して、日本人の平均摂取量は0.3%程度。健康上問題はない」

 言い換えると「海外と違って日本人は普段から大してトランス脂肪酸を摂取していないから、規制しなくてもいいでしょう」ということでしょう。また、トランス脂肪酸に関連する日本のマーガリン・ショートニングの市場は大きく、大企業も関係してくる話なので、完全に禁止するのはハードルが高いのかもしれません。

 ちなみに、マーガリンからトランス脂肪酸の含有量を減らそうと努力している企業もあります。例えばミヨシ油脂ではマーガリンに含まれるトランス脂肪酸の量を約10分の1にするなど、めざましい成果が出ています。

 しかし、国ではなく「個人」の選択として考えると、トランス脂肪酸の害は確実に意識しておくべきです。含有量の記載があれば、個々の食品に対して明確な対応がとれるのですが、表示義務が課されていないのが日本の現状です。

 少なくとも「マーガリン、ショートニング、ファーストフードといったトランス脂肪酸が含まれていると見込まれる食品を食べすぎないようにする」という対策は確実に行うようにしましょう。

【出典】

※1 DeAnn J Liska,et al. Trans fatty acids and cholesterol levels: An evidence map of the available science. Food Chem Toxicol. 2016 Dec;98(Pt B):269 281.
※2 Yongjian Zhu,et al. Dietary total fat, fatty acids intake, and risk of cardiovascular disease: a dose response meta analysis of cohort studies. Lipids Health Dis. 2019 Apr 6;18(1):91.
※3 Fumiaki Imamura,et al. Fatty acid biomarkers of dairy fat consumption and incidence of type 2 diabetes: A pooled analysis of prospective cohort studies.PLoS Med . 2018 Oct 10;15(10):
※4 Takanori Honda,et al. Serum elaidic acid concentration and risk of dementia: The Hisayama Study. Neurology. 2019 Nov 26;93(22):e2053 e2064.

※記事初出時より、以下の部分を修正しました。『実はマーガリンは現在アメリカでは「販売禁止」』を『実はトランス脂肪酸を多く含むマーガリンは現在アメリカでは「販売禁止」』に、『アメリカ、カナダ、台湾、タイなどの国ではトランス脂肪酸の使用を禁止したり、』を『アメリカ、カナダ、台湾、タイなどの国ではトランス脂肪酸の使用に制限を加えたり、』に修正。(2024年10月21日13:16、ダイヤモンド社書籍編集局)

(本原稿は、森勇磨著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を編集・抜粋したものです)