人生100年時代は、健康こそ最大の資産です。しかし40歳を越えると、がん、糖尿病、腎臓病といった病気を避けては通れません。国立がん研究センターによれば、40~49歳のがん患者数は、30~39歳と比べると3倍以上です(2018年)。もちろん50代、60代と年齢を重ねるにつれ、がん患者数はどんどん増えていきます。
本連載は、毎日の食事から、大病を患ったあとのリハビリまで、病気の「予防」「早期発見」「再発予防」を学ぶものです。著者は、産業医×内科医の森勇磨氏。「予防医学ch/医師監修」の管理人でもあり、動画は「わかりやすい説明で参考になる」「怖いけど面白い」と評判で、チャンネル登録者は27万人を超えています。初の単著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を出版し、感染症医・神戸大学教授の岩田健太郎氏が「安心して読める健康の教科書」と推薦文を寄せています。出版を記念し、内容の一部を特別に公開します。
中年注意! 糖尿病の意外な原因とは?
「筋トレ」は若者がするイメージが強いかもしれませんが、40歳以上の中高年にとっても非常に重要なものです。
人間は何もしなくても年とともに筋繊維が萎縮し、筋肉量が減っていきます。この状態を放置していると、「サルコペニア」になることがあります。
サルコペニアとは「加齢によって全身の筋力が低下すること」です。約2000人の日本人高齢者を対象にした研究でも、サルコペニアに該当する人は男性で11%、女性で17%存在します。さらに死亡リスクや介護リスクが上がったという研究があり、問題視されています(※1)。
また、年齢を重ねると何らかのきっかけで入院する機会も増えます。運動量が劇的に落ちますので、筋肉量も減少しやすいです。
筋肉貯金を作っておこう
イタリアの研究でも、10日間の入院で約15%の高齢者がサルコペニアの状態に移行したという結果もあります(※2)。年をとってからムキムキになる必要はありませんが、日頃から運動をしたり、筋トレをしたりして「筋肉貯金」を作っておいたほうが安心でしょう。
中高年にとって最も恐ろしいのは「サルコペニア肥満」です。筋肉量が低下し、脂肪量が増加した状態のことですが、「糖尿病予防」という観点では逆見本の体型です。
脂肪には、血糖値を下げる役割のホルモン「インスリン」の効きを悪くする作用があるためです。つまり脂肪量が多いほど、糖尿病のリスクが上がります。
そもそも糖尿病、または腎臓病になると、普通の人より筋肉が分解されやすくなり、サルコペニア肥満になりやすくなります。「筋肉量が落ちる→脂肪量が増える→糖尿病が悪化する→さらにサルコペニアが進行する」という負のスパイラルに陥ってしまいます。
一方、筋肉は収縮することで代謝経路が活性化し、筋細胞への糖分のとり込み力がアップし、血糖値が下がるというメカニズムになっています。筋肉量が多い、筋肉を普段から使用する人ほど、糖尿病のリスクが下がるのです。
※1 Kitamura A, Seino S, Abe T, Nofuji Y, Yokoyama Y, Amano H, Nishi M, Taniguchi Y, Narita M, Fujiwara Y, Shinkai S. Sarcopenia: prevalence, associated factors, and the risk of mortality and disability in Japanese older adults. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2 020 Nov 25.
※2 Anna Maria Martone,et al. The incidence of sarcopenia among hospitalized older patients: results from the Glisten study. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2017 Dec;8(6):907 914.
(本原稿は、森勇磨著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を編集・抜粋したものです)