これが、退職者が発生した時に想定される損失です。この試算を目にすると、計画通り採用することも大切ですが、退職させないことも非常に重要なことだとよく分かります。

メンタル不調者の急増に
官民の対策が追いついていない

 更に気になるのが、この状況を政府や人事労務担当者が理解しているにも関わらず、メンタルヘルス対策に関する状況が改善されていないことです。

 職場におけるメンタル不調の対策は、「社員の健康を守る」という観点から日々検討され、手が打たれています。産業医との契約やストレスチェックの実施、ハラスメント窓口の設置などが法制度化されていることからも、さまざまな施策が考えられていることが分かります。

図表:60パーセントの企業で下記のようなメンタルヘルス対策を実施同書より転載 拡大画像表示

 そして実際に、厚生労働省の令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、60%の企業で上記のようなメンタルヘルス対策が実施されています。

 突然辞めてしまう社員が増えているのは、みんな肌感覚で分かっています。そして企業としても決して手をこまねいている訳ではないのです。

 しかし、日本ではメンタル疾患者が年々増え続け、ここ数年は著しい増加を示しています。我々は、メンタル不調との付き合い方を真剣に変えていくべき時期にさしかかっています。

図表:精神疾患を有する総患者数の推移同書より転載 拡大画像表示