錦織圭、マリア・シャラポワ、大坂なおみ、ネリー・コルダ……指導した数々の選手を世界トップレベルに導いてきたトレーナー界のカリスマ、中村豊。彼に指導を受けた選手たちは、アスリートとして大幅なステップアップを遂げています。
中村はトレーニングによってのみ身体能力が向上するわけではなく、必要なのは「トレーニング」「リカバリー」「栄養」の3つのメソッドだと語ります。そして、この3つを適切に行えば、一般の人でも身心が健全に整い、若さを持続できると主張するのです。その実践方法を分かりやすく具体的にまとめたのが、中村の初著書『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では中村トレーナーが教える、誰もが簡単に出来るトレーニング法を紹介していきます。
股関節は体重を支え、立つ、座る、歩くといった人間の基本動作の中心となる関節です。「老いは股関節からやってくる」と言われるほど人体にとって最重要なこの関節は、大腿筋(だいたいきん)、腸骨筋(ちょうこつきん)、内転筋群などの20以上の筋肉に支えられています。股関節の動きの善し悪しが体内の筋肉の状態を表すとさえ言われるのです。
また、人間の身体のなかで一番出力が高いのも股関節まわりです。そのためトップアスリートにとっては最も鍛えるべき関節となります。今回は股関節を柔らかくするために実際にトップアスリートが行っている特別なストレッチを紹介しましょう。

股関節が柔らかいと代謝が促進され太りにくい体質になるPhoto: Adobe Stock

股関節が柔らかくなることのメリット

 この連載の以前の記事で、股関節を柔らかくするためのストレッチ「ヒップ90・90」を紹介したところ、非常に大きな反響をいただきました。そこで今回は、トップアスリートたちに指導しているワンランク上の股関節エキササイズをお教えします。

 股関節まわりが柔らかいと以下のようなメリットが期待できます。

・運動のパフォーマンスが上がる。
・バランスよく早く歩けるようになる。
・骨盤のゆがみがとれ代謝が良くなる。
・太りにくく痩せやすい体質になる。
・血流が良くなり免疫力が高まる。
・腰痛などの身体の痛みから解放される。
・身体に疲れが残りにくくなる。
・冷え性が解消される。

 このように、健康で若々しい肉体を保つためには股関節のストレッチが効果的なのです。

毎日のストレッチで
股関節の広がりを確実に実感

 ストレッチは毎日継続することが大切です。これから紹介するストレッチを正しいフォームで2週間続ければ、股関節が広がっていくことが必ず実感できるでしょう。

 まず【写真1】のように床にお尻をつき、右足を内側に90度に曲げます。右足と左足の股関節の角度を90度に保った状態で左足は後方に伸ばします。左足の膝の角度も90度に保ちます。両手は床について身体を支えます。

両手は床について身体を支える【写真1】膝関節と股関節は、それぞれ90度の角度を保ちます

 次いで【写真2】のように上半身を30度ほど前傾して、前足の臀筋群(お尻の筋肉)に体重を乗せます。そして左足を後ろに伸ばして股関節を90度以上に広がるところまで開いていきます。股関節が硬いと、斜めに偏る場合があるので両手でバランスを取るのがコツです。この状態で30秒静止しストレッチを行ってください。

両手でバランスを取るのがコツ【写真2】股関節を床につけたまま上体を前傾し、左足は後方に伸ばす

 続いて【写真3】のように左右の足を入れ替えて同じく30秒静止してください。

この一連の動作を5回繰り返す【写真3】左右の足を入れ替えて同様のストレッチを行う

 この一連の動作を5回繰り返します。毎日行うことで、股関節が広がってくることを実感できるはずです。

(本記事は、『世界最高のフィジカル・マネジメント』から一部を抜粋・編集して掲載しています)

中村 豊(なかむら・ゆたか)
ストレングス&コンディショニングコーチ
1972年生まれ。高校卒業後アメリカにテニス留学。スポーツトレーナーという職業に興味を持ち、カリフォルニア州チャップマン大学で運動生理学、スポーツサイエンスを学ぶ。1998年、サドルブルック・テニスアカデミーのトレーニングコーチに就任。2000年、女子テニスプレーヤー、ジェニファー・カプリアティのトレーナーに就任し、翌年世界No.1に導く。2004年よりIMGアカデミーに所属し、錦織圭のトレーニングを14歳から20歳まで受け持つ。2011年よりマリア・シャラポワの専属トレーナーに就任。シャラポワの黄金期を7年間支える。2020年6月、大坂なおみの専属トレーナーに就任。わずか2ヵ月でスランプに陥っていた大坂を再生させ、全米、全豪と立て続けのメジャータイトル奪取に貢献。世界のプロスポーツ界で最も注目されるフィジカルトレーナーのひとり。トレーナーとしての豊富な経験と知識を生かし、一般の人に向けた入門書『世界最高のフィジカル・マネジメント』を上梓した。