「株式会社化」する
メリットとデメリット
佐藤 コーポレート・ガバナンスの専門家でもあるケスター教授は、第一生命のコーポレート・ガバナンス改革について、どのような印象を受けましたか。
ケスター まずは、自ら率先してコーポレート・ガバナンス改革を推進していこうとする同社の姿勢が強く印象に残りました。
第一生命保険は、2010年4月、大手生命保険会社の中で最初に相互会社から株式会社へと組織形態を変更し、その後も、持株会社制への移行、取締役会のダイバーシティー(多様性)の推進など、さまざまな改革を行い、業界全体のコーポレート・ガバナンス改革を牽引しています。こうした第一生命の取り組みは、同業他社のROEを意識した経営の推進にも大きな影響を与えたと思います。
第一生命を訪問して、何よりも感心したのが、その先見性です。とにかく第一生命は他の会社よりも先に動くのです。第一生命が自社だけではなく、日本経済や保険業界の成長を考えて、長期的な課題を自ら解決しようとしていることに感銘を受けました。
佐藤 日本で最初の相互会社であることに強い誇りを持っていた第一生命保険が、他の大手生命保険会社に先駆けて株式会社化を決断した理由は何でしょうか。
ケスター 保険契約者が会社のオーナーとなる相互会社には、さまざまなメリットがある半面、多額の資金を外部から調達して、大きく成長するのが難しいというデメリットもあります。
一方、株式会社にもデメリットはありますが、株式市場から資金を調達でき、それを成長事業に投資することができるという大きなメリットがあります。
問題は、相互会社時代のパーパスを株式会社になってからも維持できるかどうか。稲垣会長をはじめ、第一生命の経営陣は、明確に同社の社会的なパーパスを社員に伝えてきたと思います。
今回の視察で、第一生命はグローバル戦略の面からも、コーポレート・ガバナンスの面からも研究対象として面白い会社だと改めて実感しました。今後も注目していきたいと思っています。
カール・ケスター W. Carl Kester
ハーバードビジネススクール名誉教授。ハーバードビジネススクール日本リサーチ・センターファカルティ・チェア。専門はコーポレート・ファイナンス。主な研究テーマは、国際企業財務及びコーポレート・ガバナンス。同校のエグゼクティブプログラムにてコーポレート・ファイナンスの講座を担当。日本の野村マネジメント・スクールをはじめ、世界各国のエグゼクティブ講座でも教員を務める。過去40年間にわたり、定期的に来日し、HOYA、小糸製作所、ミネベア(現ミネベアミツミ)など、日本企業の事例を多数研究し、教材を執筆。浮世絵と根付の収集家でもある。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/。