石破政権の発足で官邸の実務を支える官僚の面々にも変化があった。各省庁にとって、「官邸入り」する官僚の数は大きな関心事だ。その多寡次第で、“笑う官庁”もあれば、“泣く官庁”もある。しかし、総選挙で与党が惨敗したこの局面では、事はそう単純ではない。新政権の官僚人事の内幕に迫る。(ライター 種市房子)
事務方トップの佐藤官房副長官は
石破首相と高市氏の「パイプ役」も
石破政権の実務を担う官僚の顔ぶれが政権発足時に代わった。官邸の重要ポストに多数の官僚を送り込んだ省もあれば、反対にポストを減らした省もある。
通常、新政権発足直後の霞が関においては、「官邸入りした官僚」の話題で持ち切りになり、笑った省と泣いた省が取り沙汰される。しかし、10月27日投開票の衆議院選挙で、自民・公明の与党勢力が過半数を割り込む大敗を喫した今回の局面では、いつもと様相が異なる点もあるようだ。
新政権における官僚人事の注目点の一つは、まず、「事務方トップ」の官房副長官が、元警察庁長官の栗生俊一氏から、元総務次官の佐藤文俊氏に交代したことだ。
佐藤氏は、総務省で自治財政局長など要職を務めた。民主党政権で内閣官房副長官補室審議官も経験しており、官邸の意思決定や仕組みも理解している。首相秘書官の筆頭格である防衛省出身の槌道明宏氏が、官僚の統率力については未知数の中、佐藤氏の実務経験に期待がかかる。
官房副長官は政務担当2人、事務担当1人の計3人が就任する。今回、佐藤氏が就いた事務担当は、内政全般について中央官庁を指揮し、各省庁間の調整に当たる事務方トップの役割がある。政権の看板政策に加えて、沖縄振興や災害時の復旧・復興、パンデミック対策など政権にかかわらず必要とされる政策を担う。
事務担当の官房副長官にはもう一つ、「内閣人事局トップ」としての重要な役割がある。幹部人事を一元的に管理する同局にあって、絶大な決定権を持つ。岸田政権の栗生副長官が、内閣人事局トップとして担当した2024年夏の警察庁定期人事異動では、将来、長官や警視総監まで進むともいわれた渡辺国佳刑事局長の退任が発表され、霞が関を震え上がらせた。
官房副長官は第2~4次安倍政権・菅政権の杉田和博氏(元警察庁警備局長)、岸田政権の栗生氏と、2代続けて警察庁出身者が務めたものの、過去の「大物副長官」を振り返ると、旧厚生省出身の古川貞二郎氏(元厚生次官)や旧自治省出身の石原信雄氏(元自治次官)ら、ほかの旧内務省系官庁からの登用も目立つ。
佐藤氏には、石破首相と、総裁選決選投票を争った高市早苗氏との、意思疎通のパイプ役も想定される。佐藤氏が総務次官を務めた時代の大臣は高市氏で、頻繁に膝を突き合わせていたからだ。なお、総裁選前は「高市総裁誕生ならば、佐藤氏が副長官に登用されるのでは」との観測もあった。そのぐらい、高市氏との距離は近い。
旧自治省からは、佐藤官房副長官の他にも複数の次官級経験者が官邸入りした。次ページでは、相次いでOBを官邸に送り込んだ旧自治省が、実は素直に喜べない理由を明らかにする。さらに、重要ポストを減らした財務省の侮り難いしたたかさにも迫る。