だが日本の現状では、金利上昇を抑えるような動きが起きる可能性がある。日本銀行が利上げを躊躇するかもしれない。あるいは政府が日銀に圧力をかけて金利の引き上げを認めないかもしれない。

 石破首相は、つい先ごろまでアベノミクスに対して批判的な意見を述べていた。しかし、自民党総裁に選出されると180度転換し、日銀総裁に利上げを牽制するような発言をするようになった。

 こうした“圧力”のために日銀が利上げできなくなると、資金調達市場が混乱する可能性があり、債券市場で円滑な資金調達ができなくなる。ちょうど2022年の秋に生じた状況の再現だ。この時には、金利上昇圧力が強まったにもかかわらず、日銀はイールドカーブ・コントロール政策に固執し、長期金利(10年国債金利)の上昇を指し値オペなどで強引に抑えたため、スプレッド(国債との金利差)が取れない地方債や社債による資金調達に障害が出た。

 また、日銀がイールドカーブ・コントロールの撤廃に追い込まれることを見越した海外ヘッジファンドからの激しい投機に見舞われた。

財政赤字拡大で物価も上昇
需要曲線がシフト、均衡点が移動

 以上で述べたのは、物価水準が一定に保たれる経済の分析だ。しかし、物価の変動を考えると、財政赤字拡大の影響はそれだけにとどまらない。

 これを分析するために、総需要・総供給のモデルを用いる(図表2参照)。これは物価が変動する場合に、経済全体の均衡における物価とGDPの関係を示す分析だ(この場合にも金利は動いているのだが、表には表れない)。

 この分析では、縦軸に価格を、横軸にGDPを取る。

 価格を所与とした場合にIS・LM分析から得られる均衡のGDPを、さまざまな価格についてプロットした直線を総需要曲線(AD曲線)という。

 IS・LM分析からすぐに分かるように、総需要曲線は右下がりだ。

 他方で、供給面を考えると、価格が高いほど供給が増えると考えられるので、総供給曲線(AS曲線)は右上がりになる。これはフィリップスカーブと呼ばれる経験則から導き出された考えだ。

 財政赤字が増加すると、総需要曲線が右に動く。ところが、総供給曲線は右上がりなので、物価が上昇する。つまりインフレがもたらされる。

 以上をまとめると、財政赤字の拡大によってGDPの増加と金利の上昇、そして物価の上昇がもたらされることになる。