仕事一筋で生活を送ってきた人の中には、退職で肩書がなくなった自分を受け入れられなかったり、生きがいを失ってしまったりする人がいる。退職後も幸せに過ごせる人は、どのように引退生活に移行していったのか。前編に続き、人々がどのように引退生活に移行していくのかについて、長年調査してきたハーバードビジネススクール名誉教授のテレサ・アマービレ氏に話を聞いた。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
>>前編『退職後「不幸になる人」と「幸せになる人」の決定的な差、ハーバードの研究で判明』から読む
セミリタイアの選択肢が
幸せな引退生活につながることも
佐藤智恵 「生きがいは仕事、趣味は仕事」という人たちにとって、いきなり仕事がなくなってしまう「退職」はかなりショッキングなライフイベントだと思います。こうした人たちがスムーズに引退生活へと移行するには、どうするのがよいでしょうか。
テレサ・アマービレ 何よりも仕事が生きがいであるならば、「生涯現役」をめざすのも一考の余地があると思います。私自身は74歳で教職から完全に退くことを決断しましたが、ハーバードビジネススクールには私よりも年上で、今も現役で教えている教員がたくさんいます。つまり、「現役を引退しない」という選択肢もあるのです。
航空機のパイロットや消防士のように、身体能力が衰えると続けられない職業もありますが、教員、小売店の店主などのように、長く働き続けることができる職業もあります。もし「生涯現役」を目指すのであれば、そのまま今の仕事を続けてもいいですし、続けられないのであれば退職前に「やりがいを感じられて、なおかつ、長く働ける仕事」を新たに見つけておく必要があるでしょう。
私の場合は、生涯現役を目指すのではなく、徐々にリタイアする選択をしました。数年前に、パートタイムで教える「セミリタイア期間」に移行し、2024年7月、74歳で完全にリタイアしました。今から思えば、セミリタイアの期間があったのは、とてもよかったと感じています。その間に、少しずつ、家族と過ごす時間を増やしたり、執筆活動に割く時間を増やしたりすることができましたから。
大学と同じように企業が「セミリタイア」できる選択肢を社員に提供することができれば、シニア世代がよりスムーズにリタイア生活へと移行する助けになるのではないでしょうか。例えば、契約社員としてパートタイムで働く、あるいは、プロジェクトベースで働く、などの制度があれば、一定の給与を得ながら、次の新しい仕事や趣味に挑戦することができるでしょう。