これらの課題に対応するには、グループガバナンスの規定や人事制度をグローバルに通用するものに修正していく必要がある。理想的には、各海外拠点の経営はごく少数の日本人と各地域の優秀な人材とが融合したチームで行うべきだろう。これにより、海外事業経営ができる日本人社員のリソース不足をある程度緩和できる。
キーマンリスクでは、近年、海外子会社での不正や損失などについて、本社取締役の善管注意義務違反が問われる可能性が高まっている。そのため、海外事業の経営実態に関する透明性の維持を含む経営モニタリングが重要となってきている。
また、評価や報酬をそれぞれの地域の基準や慣習に応じたものにし、市場価格を踏まえた条件設定を行うことも重要になる。
グループガバナンスを機能させるには
子会社経営陣に対するガバナンスが不可欠
グループガバナンスを機能させるために必要不可欠な要素として、実際に事業を遂行する国内外の子会社経営陣に対するガバナンスがある。これは、KPIを含めたグループとしての戦略・事業計画を遂行させるためにも、さらには共有すべき理念や価値観等をグループ各社に周知し浸透させ、そのコミットメントを確保・醸成するうえでも重要だ。
国内外の子会社経営陣に対するガバナンスを実効性あるものにするには、少なくとも子会社各社の経営トップ、できれば各社のエグゼクティブやキーパーソンまでを対象として、いわゆる人事三権(任免、評価、報酬)を本社が「実質的に」掌握する必要がある。本社が事業子会社に求めることを事業子会社がきちんと遂行しているのであれば評価して報酬につなげ、望まないことをしているのであれば経営陣を交代する。それを、本社が主体的に意思決定することに意味がある。
また、人事三権を駆使するためには、各社経営陣の入れ替え・交代に備えた後継者育成計画を、本社が運営・実行することも欠かせない。なぜなら、現地の人がトップになっている海外の子会社やM&Aで子会社化した場合などでは、トップを交代させたくても後任が見つからないために交代させられないということもあるからだ。そうした事態を避けるためにも、本社は適切な経営人材を育成・プールしておく必要がある。
(※本稿は、PwC Japanグループ著『レジリエンス時代の最適ポートフォリオ戦略』から一部を抜粋し、再編集したものです)