ところが、コロナ禍がほぼ収束した今年は、一転して増加に転じた。コロナ禍の影響をなんとか凌ぐための「早期・希望退職募集」とは様相が異なる動きだ。これはコロナ禍で先が見えない経営環境のなかで改革を踏み止まっていた大手が、一気に動き出したとみるべきだろう。
「人手不足」関連倒産が急増なのに
早期・希望退職の募集が増えるワケ
上場企業が早期・希望退職募集を募る一方で、深刻な人手不足が際立ってきた。2024年1-11月の「人手不足」関連倒産は266件(前年同期83.4%増)、前年同期の1.8倍と急増し、すでに過去最多の年間件数を更新した。
こうした人手不足の顕在化は、一見すると早期・希望募集の抑制を連想させる。だが、実際にはこれと相反する動きになっている。
これには「賃上げ」の影響も無視できない。ここ数年の賃上げ機運を受け、企業は中長期的な視点で売上高に対する人件費の比率をシビアにみるようになった。費用対効果を算定し、成長が見込めない事業と判断すると、ドラスティックに廃止や売却を決断する。その一方で、成長や高い利益率が見込める事業に対しては経営資源を投入する動きが加速している。
加えて、「スキルのミスマッチ問題」もある。複数の事業部門を抱える大手企業などは、部門間で人材を融通できる点が強みでもある。にもかかわらず、成長が見込める事業で求められるスキルにマッチしないケースは多い。
従来の日本企業では、こうしたケースでは社内でスキルを醸成し、足りない人材は社内で育てる懐の深さや余裕があった。だが、人材の流動化が進む雇用のマーケットでは、社内で時間をかけてじっくり人材を育てるより、即戦力を外部から獲得する。確かに、こちらの方が経営効率の面では理にかなっている。
企業を取り巻く環境は大きく、目まぐるしいスピードで変化し、いま利益を生み出している事業が永久に続くわけではない。
終身雇用が崩壊し、本格的に雇用の流動化やジョブ型志向の時代を迎えている。こうした動きを背景に、2025年以降も希望・早期退職の募集はさらに加速する可能性が高まっている。