24時間以内で小型駅舎を建設
地域性のあるデザインも可能に

 JR西日本が同社の技術に可能性を見出したのは、ローカル線に多数あるアルミユニット製の小型駅舎の置き換えだ。券売機や待合室があるだけの小型で非常に簡素な建物だが、その施工には多数の作業員と時間が必要だ。上述のように、夜間・休日勤務の多い技術部門、特に下請けの協力会社作業員の人手不足が顕在化している。

 そこで3Dプリンターの出番だ。工場でモルタルを用いてパーツを造成し、現地に運び込む。最小限の人員で24時間(8時間×3日)以内に組み立てることで、工期の短縮とコストダウンが期待できる。加えてアルミ板の小屋は味気なかったが、3Dプリンターで壁面に丸みや模様を付けることで地域性のあるデザインも可能になる。

3Dプリンターで出力された模様付きコンクリート壁、強度を保持する波型の補強材が一体成型されている3Dプリンターで出力された模様付きコンクリート壁、強度を保持する波型の補強材が一体成型されている(筆者撮影)

 異色のコラボの背景をJR西日本イノベーションズ川本亮社長は「うちらが見て、面白そうだなっていうことでアタックしたという。これだけです」と語る。JR西日本から声をかけたのは2023年秋ごろ。資金ニーズがあったセレンディクスと思惑が一致し、今年5月22日に同社と資本業務提携を締結した。

 鉄道にはさまざまなコンクリート構造物があり、駅舎ができるならば、他にも転用できる可能性がある。前述の通り、セレンディクスは「toC(消費者向け)」の住宅提供を理念に掲げる事業者だが、JR西日本は「toB(事業者向け)」としての可能性を感じたという。

 川本氏は「社員は常に色々なネットワークから、面白そう、親和性が高そう、新しい知見が得られそうなスタートアップを探してくれています。(セレンディクス社も)そのひとつであったということですね」と同社のイノベーションの源泉を語る。

 早速、今年度中にも試験設置して来年度にわたり実証実験を実施する。実用化の暁にはモルタル製のメリットを活かして、塩害の影響が大きい沿岸部を中心に導入する意向だ。

「コンクリート構造物自体はそんなに検証はいらないと思いますので、コストを振り返って、本当にコストダウンができるのかどうかとか、使い勝手はどうかというところですね」

 検証は技術面より実際の運用を見据えた内容になる。地方の小規模駅は細い道路の先や、民家の近くにある。そのような場所にパーツを運び入れて、クレーンで組み立てるコストや手間がどの程度のものか、実際にやってみないと分からない面があるという。