JR3社は近年、相次いで水素を利用する燃料電池車両の開発を公表し、2030年代の実用化に向けて各種試験を進めている。その中でも注目すべきはJR西日本の取り組みだ。鉄道の水素化をどのように進めていくのか、鉄道本部イノベーション本部GX戦略課長である千田誠氏に話を聞いた。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
燃料電池車両の開発計画で
注目すべきJR西日本の取り組み
鉄道に水素時代が訪れようとしている。12月4日付記事『JR3社の「水素車両」構想が水素自動車より現実的なワケ』で紹介したように、JR東日本、JR東海、JR西日本は相次いで水素を利用する燃料電池車両の開発を公表し、2030年代の実用化に向けて各種試験を進めている。
その中でも注目すべきはJR西日本の取り組みだ。同社は11月21日、関西電力、NTTグループ、パナソニック、JR貨物と共同で、2030年代をめどに安価で効率的な水素サプライチェーンの確立を目指した「姫路エリアを起点とした水素輸送・利活用等に関する協業の基本合意」を発表した。
トヨタの量産燃料電池自動車「MIRAI」に代表されるように、日本の燃料電池技術は世界最先端とされているが、フランスの大手鉄道車両メーカー「アルストム社」が燃料電池車両を実用化するなど、欧州勢の追い上げは著しい。コストの問題は別にして、性能的なハードルはおおむね解決されたと言ってよいが、最大の課題が水素インフラの整備だ。
ただ、前回記事でも触れたように、自由に走り回れる自家用車と異なり、バスやトラック、鉄道のように、車庫を起点に決まったルートを走行する業務用車両はこのハードルをクリアしやすい。つまり、燃料電池車両の実用化は、水素サプライチェーンの確立が大前提となるわけだ。
そこで先行するJR東日本やJR東海は、燃料電池車両開発の発表の中で、将来の水素供給体制整備にも触れている。だが、JR西日本が異なるのは、水素輸送・利活用が発表の主題であり、一方、鉄道の脱炭素化(燃料電池車両導入)は概念図にサラリと書かれるのみという点だ。
この壮大な「主客転倒」は一体、どのようなビジョンに基づくものなのか。鉄道の水素化をどのように進めていくのか、JR西日本の鉄道本部イノベーション本部GX戦略課長である千田誠氏に話を聞いた。